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□誤魔化し
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この関係が始まって、もう何ヵ月経つだろう。確か、真波が初めて俺たちとあった頃からだから、もう5ヶ月か。裸の男二人が、ベッドの上。隣で鼾をかいている不細工を眺めながら、自分の情けなさを思う。こいつといるのは楽だ。自分が愚かだという現実から、目を背けていられる。だって、こいつも同じだから。
荒北も俺も、お互い他に好きな相手がいた。でも、その相手に自分たちなんて似合わない。それがわかっているから、傷を舐め合い、誤魔化すように身体を重ねた。始めに今の関係を持ちかけたのは俺だ。抵抗がなかった訳じゃない。それよりも、忘れさせて欲しいと言う気持ちが勝った。結局、二人とも本命を変えられずにいるから、この関係には何の意味もないのかもしれない。
俺は耐えきれず、荒北に擦りよった。どうせまだ起きないし、何をしたって構わないだろう。その腕に雫を押し付けたって、昨日の汗だと、流されてしまうだけだ。
声を、押し殺して、泣いてやる。
「……どうしたんだヨ、東堂」
「っあ、らきた……」
ぐいっと引き寄せられ、荒北の胸に顔を押し付けられる。男の固い胸板なんて、なんも嬉しくないぞ。でも、荒北の不器用な優しさは、くんでやらんでもない。
荒北の肩に掴まり、さらに距離を詰める。乱暴に見えて、ちゃんと力を抑えているところが、こいつの甘いところだ。今も、昨日の行為だってそうだった。
「泣けばいーだろ」
「……ふん、誰が泣くか」
俺は、天下の山神様だぞ? 何とか、不格好な笑みを繕う。ウゼェの、荒北はわしゃわしゃと俺の頭を掻いた。そしてまた優しく抱き寄せるのだ。
俺は何も考えずにそれを受け止め、熱に寄り添う。こいつといるのは、驚くべきほど楽だ。何も考えなくていい。気を使うこともないが、お互いの、入り込んではいけない傷も知っているから、安心して身体を預けられる。
あの、眩しいほど生を謳歌するあいつの、隣に俺は相応しくない。ならば、自分に嘘をつき、誤魔化して、忘れられなくても忘れた方が、幸せだろ。俺も、あいつも。
「……なあ荒北」
「あ?」
荒北は俺の背に腕を回しながら、面倒そうに俺を見た。そうそう、この目に見えて気を使わない感じがいいんだよな。思わず心の中で、にやりと笑ってしまう。
「すっげーブス」
「っるせ!……男は顔より中身だろがァ」
荒北は俺の頭を叩き、不貞腐れたように呟いた。
恋心を落としたわけじゃない。今でも、胸の奥底に、あいつの笑顔が見える。けれども、今の俺に必要なのは、友達以上恋人未満の、どうしようもない不細工なんだ。

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