中編・シリーズ book
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カミュくんは異国の人だから、日本のことはまだ知らないことばかりだと思う。だからこちらから彼にいろいろと要求するのは間違いというものなのだろう。
でも、いくらなんでもこの会話の流れはおかしくないですか。
「貴様、名無しのと言ったな」から「貴様、黒崎のことが好きなのだろう?」って明らか途中の会話をいろいろと吹っ飛ばしすぎじゃないかな、うん。
「…………で、どうなのだ小娘」
私の固まっている時間が長かったのか、顔を離し不機嫌そうに眉間に皺を寄せるカミュくん。こ、こわい。というか名無しのとは呼んでくれないんですね。
私も負けじとできるだけのスマイルを浮かべて、カミュくんと向かい合う。
『え、っと、何のことでしょうか……?』
「……ふん、人間は嘘をつく時に必ず右上を見ると聞いたことがあるが、本当だったとはな」
『な……っ、』
「ま、今ではその説も真実ではないらしいが」
『……ど、どっちですか!』
思わず突っ込んでしまった。
カミュくんに嘘をつくのは無謀だと思ったんだけど、やっぱり無謀だったらしい。
カミュくんはそんな私を見下ろして(見下して)、再び鼻を鳴らした。
「正直に言え、この愚民。……あらかじめ言っておいてやるが、すべて貴様の顔に出ていたぞ」
『え…………ええっ!?』
なんてこった!!
全部顔に出てた、って…………あれか、黒崎くん好き好きオーラが全身からダダ漏れだったということか!うわああああ恥ずかしい!!ただの変態じゃん私!!
愚民って言われたけどもうどうでもいいや。
「さぁ、さっさと言え。黒崎が好きだと」
『うッ…………す、好き……です、』
カミュくんに促され私が絞り出すようにそう呟くと、カミュくんは「ふん、それでよいのだ」と満足したように頷いた。もう恥ずかしすぎて死にそう。
でも……カミュくんはいつから私が黒崎くんのこと好きだって気づいていたんだろう。
「授業中にあれだけ視線を注がれていれば、気づかない方がおかしいだろう」
『えっ!? そんなに私わかりやすかった!?』
「バレバレだ愚か者。まぁ、当の黒崎は気づいていないようだがな」
『そ……そうですか…………』
そんなに熱視線を送っていたのだろうか。確かに黒崎くん観察と称してずっと黒崎くんを眺めていたけど、食い入るように見ていた覚えはない。たぶん。
まぁでも本人には気づかれてないなら安心だ。寿命縮まるよ、もう。
………………ん?
待て待て待て。ちょっと待て。カミュくんの席は私の斜め前のはずだよね。授業中は後ろなんて振り返らないのに、どうして私の視線に気づけるの。そしてどうしてバレバレなの。
「昔から不審な行動には、素早く察知するようにしているのだ」
『え、いやあの……カミュくん?さっきから心を読まれている気がするんですが、』
「当然だ。先程も言ったであろう。すべて貴様のそのマヌケ面に出ている、とな」
『えっ、嘘!?』
自分の顔をぺたぺたと触る。なんでもかんでも顔に出すぎじゃないのか、私。というか、どれだけ痴態をさらせばいいんだろう。顔から火が出るとはこのことだ。
するとまたカミュくんに鼻で笑われた。
「ふっ、貴様の表情は見ていて飽きんな」
『かっ……からかわないで下さい』
「からかってなどおらぬ。むしろ褒めてやっているのだ。ありがたく思え」
『あ、ありがたく思えませんよ』
なんて横暴なんだこの人は。人の弱みを握って面白がっているようにしか思えない。その前になぜ私はカミュくん相手に敬語なんだろう。なんというか……オーラ?俺の前にひれ伏せ的なオーラを纏っているからなのかな。
黒崎くんもそうだけど、ただならぬ存在感だなぁカミュくん。
「……ところで貴様、これは食さぬのか?」
『…………へ?』
「先程からそのままだったようだが」
カミュくんに指摘されて視線を落とせば、まだ半分以上も残っている私のお弁当があった。
『あ、うん……なんか食欲なくて、』
「ふん。さしずめ、黒崎のことを考えていたら食事も喉を通らなくなった、というところか」
『………………』
なんでわかるんだろう。
カミュくんって実はエスパーなんじゃ……と思っていたらカミュくんが涼しい顔で「貴様が単にわかりやすいだけだ」と言った。
お願いだから心を読まないで下さいカミュ様。
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蘭ちゃんが……行方不明。
2013.04.01.