〈七つの大罪〉が一人〈強欲の罪〉であるバンさんに、私はたぶん気に入られている……と言ったらそれは自意識過剰だと思われるだろうし自分でもそう思うけれども、しかしある時メリオダスさんがこぼしていた言葉を私はふと思い出していた。
「バンは興味のないことにはとことん無関心なんだが、一度気に入っちまったモンはすぐ自分のモノにしたがるんだよなぁ。しっかしその上冷めるのも人一倍早いもんだから質がわりぃのなんのって!」
その時は笑って聞き流していたけれど、その話がもし本当ならば私の思っていることは決して気のせいではないのだろう。まさか彼の次なる標的がまさか自分になるとは誰が想像できただろうか。またよりにもよってこんなただの平凡女にどうして興味を持ってしまったのか謎で仕方ない。だってバンさんのツボに入ってしまった覚えもないし、自分で言うのもアレだけどちょっと趣味が悪いというか本当にどうかしてるんじゃないのかなバンさん(自分で言うのもアレだけどね!)。
まぁとにかく、メリオダスさんの言葉通りならば彼のほとぼりはいずれ近いうちに冷めるはずだ。だからそれまで私はできるだけバンさんから距離を置くようにしようと思う。あんなに毎回抱きつかれては心臓がもたないというか、だってバンさんは所謂イケメンだし、イケメンにそんなことされたらさすがに平凡女だって……あわわ考えたらなんか恥ずかしくなってきた!とにかくバンさんには極力関わらないようにしておけば、
「なんだ、考え事かァ?」 『わあああ!!?』
そして私は今何をしていたのかといえば食器拭きの最中で、最後のお皿をようやく拭き終えるところで背後から突然誰かに声をかけられて。その声の主がまさしく今私が頭を抱えていた張本人なのだから驚くのも無理はない。思わず持っていたお皿を手放してしまい慌てて抱え直した。間一髪だった。
「んだよ、驚きすぎじゃね♪」 『ばっ、バンさんが何の前触れもなしにいきなり現れるからですよ!というかさっき皆さんで情報収集に外へ出て行きませんでしたっけ!?』 「あァ?んなの面倒臭くてやってられっかよ♪そんなことよりー、っと!」 『う、わッ!?』
ひょい、とバンさんは私の抱えていた大きな皿を片手で取り上げ丁寧に棚へ戻してくれたかと思えば、しかしながら次の瞬間バンさんの両手が私の脇の下に滑り込んできて。思わず素っ頓狂な声を上げた私を彼は軽々持ち上げ、そしてあろうことか椅子へ腰かけた自分の上へ更に私を座らせたのだった。おかげで私の目線の高さがバンさんのそれと同じになってしまって、その距離の近さにいち早くここから飛び退きたかったが既にバンさんによってがっちりと腰をホールドされており。慌てて視線を下へおろせばバンさんのたくましい腹筋が目に入ってしまったものだからもう顔を横に背けるしかなかった。あああダメだ近い近い近い!両手だってやり場がなくてでもそのままだとバランスとれないから恐る恐るバンさんの肩に置いてしまった。どうしようすごく恥ずかしい!
「……へェ、いい眺めだな」 『っ、あああの下ろしてくれませんでしょうか!』 「カカッ、い や だ♪」 『いやいや嫌だじゃなくてですね、』 「、つうかイイ匂いすんな、オマエ」 『人の話を聞いてくださ、──ッ!?』
いきなりぐっと抱き寄せられて一瞬息が止まった。そしてバンさんの息づかいがほんの間近で聞こえたかと思えばそのまま首筋に鼻を埋めてくるものだからまたしても私は呼吸ができなくなるわけで。すんすんと鼻を鳴らしながら今度は喉元に下りてきて、更に強く抱きしめられた。そのせいでバンさんの唇が僅かに肌を掠めて、もう自分でも何が何だかわからなくなって。
「甘ぇな」 『や……っ、バンさん!』 「あァ? ンだよ、顔真っ赤にして」
力の入らない手で必死にばしばしと肩を叩けばようやく顔を上げてくれたバンさん。そんな彼は私の気持ちなんてきっと微塵も汲み取ってはくれないのだろう。未だに顔が近い状態で私は当然のごとく目も合わせられないまま『は、離していただけますか』と小さく哀願したが、目の前の彼はそんな私を面白がるようにクツクツと喉を鳴らしそして一言「いやだ♪」と放った。本当にこの人は悪魔だと思った瞬間だった。
「言っただろ、てめぇは俺のモンだって」 『っ、』 「そう簡単に手放してたまるかよ」
目を細めてそう告げるバンさんになぜか私は何も言い返せなくて、そして再び私はバンさんの腕の中へ閉じ込められてしまったのだった。
平凡女の憂鬱
とにかく私に対するバンさんの興味が一刻も早く冷めてくれることを祈るばかりです。
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その後バンがいないことに気づいて戻ってきた団長によってバンは吹っ飛ばされましたので、皆様どうぞご安心ください。
2014.12.19.
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