それから私の救世主であった一宮さんは私たちに大まかな概要の説明をして、各係に分かれるよう指示した。 私も早く行かないと……
「えっと、名無しのさん……だよね?」 『! ……あ、はいそうです!!』
するといきなり話しかけられた。誰にって、あの一宮さんだった。いきなり緊張マックス状態だ。私は慌てて背筋を伸ばし、彼と向かい合った。 というか、どうして一宮さんが私に?初日から注意を受けるのは……さすがにないと思うんだけどな。
けれど内心あわあわしている私に、一宮さんはにっこりとまた柔らかく笑って。
「えっと、大丈夫?なんか自己紹介の時、すごく緊張してたみたいだったから……」 『え……?』 「あ、その、俺も人前で緊張しちゃうタイプだから気持ちはよくわかるんだ。でも大丈夫だよ、ここの課の人たちはみんな親切だから」 『…………!』
彼は、心配してくれたんだ。 私の中で勝手に彼を救世主と呼んでいたけど、やっぱり彼は私の救世主だった。
すごく、嬉しい。
『あの、ありがとうございます』 「うん。今日からよろしくね、名無しのさん」 『はいっ、よろしくお願いします!』
私は深く頭を下げた。優しそうなではなく、本当に優しい人だと思った。一宮さんみたいな人が先輩でよかったなぁ。
そして私が再び顔を上げると、一宮さんと視線がぶつかって。私は急いで目を逸らそうとした。けれど、
『っ、』
まるで安心させるように微笑みかける一宮さんを前に、それはできなくて。 今度はその笑顔に、心臓が馬鹿みたいに騒ぎ出した。
(ちょ、ちょっと待って、)
いくら抑えようとしても、私の心臓は言うことを聞かなくて。それどころか、ばくばくばくと鼓動は速くなるばかりで。
「……名無しのさん?どうかした?」 『な、っ、なんでもないです!!』
心配そうにこちらを覗き込まれれば、更にその症状は促進されてしまう。
…………間違い、なかった。
(私一目惚れする方じゃないのに、)
私名無しの名無しは、初日早々恋に落ちてしまいました。
恋する。
─ ─ ─ ─ ─
長谷部さんを早く出したい……
2013.08.13.
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