短編集

□無意識に
1ページ/4ページ













「……何観てんだお前」


『あ、黒崎さんおかえりなさい』





仕事から帰ると、名無しのがDVDを観ていた。

それは別にいいんだが、部屋にある大きな液晶テレビには確かに俺が映っていて。


……てか、これ俺が出てたドラマじゃねぇか。
コイツ録画してたのかよ。
名無しのは一度俺の方を見てから、また視線をテレビに戻した。俺も荷物を置いて、ソファーに座る名無しのの横に腰を下ろす。





『この黒崎さんの役、すごく格好いいですよね。一見クールで冷たいようで、実は情熱的なところとか、面倒見がいいところとか!』





テレビの俺を見ながら、名無しのが嬉しそうに話す。

……なんか、変な気分だ。



コイツが観ているDVDは、俺が以前出ていた恋愛ドラマ。

そして今映っているのは、相手役の女優とのツーショットだ。ここは部屋を出ていこうとする男の手を女が掴み、「行かないで」と涙ぐみながら呟く。それを聞いた男は何も言わず、ただ優しく女を抱き締める……といったシーンだったはず。





『このシーン好きだなぁ……黒崎さん格好いい』


「っ、」





いきなりそんなことを言われ、驚いて名無しのの方を見れば、名無しのはテレビを観ながらうっとりと目を細めていた。


ほんと、馬鹿か俺は。
コイツが格好いいって言ってんのは俺の役だろうが。なんで俺が反応してんだよ…!

てか、コイツはこういう男が好きなのか。クールでいて実は情熱的……っていったら藍あたりか?





…………。

なんか、腹立つ。


俺はテーブルに置いてあったテレビのリモコンをを拾い上げ、電源ボタンを押した。





『え、あれ?消えた……って、黒崎さん!なんで消しちゃうんですか!?』


「うるせぇ」


『うわぁ酷い!せっかくいいところだったのに……。黒崎さんの鬼ー!!』





そう叫んで大袈裟にうなだれる名無しの。それでもテレビはつけてやらねぇ。

無性に苛ついていたのもそうだが、俺と相手役の女の……その、そういうシーンをコイツには観せたくなかった。


意味わかんねぇ。












次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ