Long

□見知らぬ人
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私が独りを嫌う理由はいくつかあって、まぁ寂しかったり不安になったりするのが主な理由なわけだ。独りでぽつんといるより、大勢でわいわい騒いでいる方がいいに決まっている。
しかし私は見落としていた。重大なそれを、見落としてしまっていた。

そう。
もし自分がピンチの時、助けてくれる人は誰もいないということを。
ピンチの時、それを自分自身で対処しなければならないということを。

ということで、只今名無しの名無しは人生最大のピンチです。



『ふ、ふしっ、不審者あああぁっ!!!』



私の目の前には、おそらく私より年上と思われる男性が一人。しかもここはベッドの上であり、目の前にいるということは、つまるところ、私と彼は同じベッドで……
そこまで考えて、私は勢いよく布団から飛び起きた。やばいやばいやばい。この人どこから入ってきたの!?昨日もいつも通り玄関には鍵をかけたはずだ。窓だってちゃんと閉めていたし、侵入できる所なんてどこにもないはずなのに!



「ええっ!?ち、違うよ!ぼくは不審者なんかじゃないよ!!」
『こっ!!?こっち来な、──ぎゃっ』



慌てて弁解しようとする不審者。不審者じゃないって……じゃあ何?泥棒?いや、そうだとしたらこんなところで悠々としてないだろうし……ほら、やっぱり不審者じゃん!
そうこう考えていると、いきなりその不審者がこちらへ詰め寄ってきて。反射的に距離を取ろうとしたが、シングルベッドというのは案外狭いもので、その結果床へと転げ落ちてしまう私。

痛い。もう嫌だ。



「だっ、大丈夫名無しちゃ、」
『──っ、触んないで、!!』
「…………え、?」



伸びてきた不審者の手を振り払って、とりあえず急いでベッドから離れる。その時不審者の傷ついたような表情が見えた。だけど、今はそれどころではない。



『け、警察呼ぶから!だから早く出て行って!!』
「待って、ぼくの話を」
『嫌!早くどっか行ってってば!!』



私は震える手でテーブルに置いてあった携帯を掴み、番号を押す。あ、あれ?警察って何番だっけ。119番?あれ、それは救急車だっけ?
どうしようわからない。頭が上手くまわらない。とにかく怖くて、何も考えられなくて。

じわりと目頭が熱くなる。なんで、こんなことになったんだろ。私は何も悪いことなんかしてないのに。昨日までいつも通りだったのに。いつも通り、友達と夕方まで遊んで、家では一人だけど、ハヤトと一緒ですごく幸せで、

(………………あれ、)
ここでふと我に返る。
そういえば、起きてから一度もハヤトを見ていないじゃないか。昨日一緒に寝たのは確かで、でも、目を開けたら不審者がいて。
しまった、頭の中がぐちゃぐちゃすぎてハヤトのことを考える余裕がなかったんだ。……ということは、ハヤトは未だベッドの上というわけで。
しかしベッドにはまだ不審者がいる。私はまた怖くなって、警察を呼ぶことも忘れて近くにあったクッションを抱き締めた。けれどいくら強く抱き締めたところで、不安は募るばかりで。

違う。クッションじゃ駄目なんだ。
早く……ハヤトを抱き締めたいよ。

涙が一筋、頬を伝ったその時。



『!!!』



まるで包み込むように。

私は、不審者に抱き締められていた。







見知らぬ人







2012.03.02.

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