Long

□プロローグ
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私は、一人が嫌いだ。

一人だと、何もできない。ゲームも、喧嘩も、仲直りも、会話も、笑い合うことさえできない。
一人は楽しくない。寂しい。苦しい。つらい。
だから私は、極力一人でいることを避ける。学校では気の合う友達もいるし、なるべく一緒に過ごしている。馬鹿話をして笑い合っていればすごく満たされるし、幸せだと感じることができる。

しかし、家は違う。私の家は、誰もいない。兄弟も、両親もいない。兄弟はもとからいないし、両親──お母さんは私が小六の時、病気で死んでしまった。卒業式を間近に控えていた頃だった。それから私は中学生になり、お父さんは仕事のため海外へ行くことになった。私も一緒に行こうと誘われたが、断った。見知らぬ土地へ飛び込むのは怖かったし、それに私がついて行ってもお父さんの仕事の負担になるだけだと思ったからだ。そんな私を不安げに見つめるあのお父さんの顔は、未だに忘れることができない。

まぁ、というわけでそれから約五年、私は立派な高校生だ。もう一人暮らしにも慣れてしまって、なんだかんだで充実した日々を送っている。……さて、ここでなぜ独りでいることが苦手なはずのこの私が五年もの間、このように生活できていたのかという点において説明しよう。
答えは至って単純、私にとって特別な存在がいたからだ。あらかじめ言っておくが、彼氏ではない。断じて違う。


私のかけがえのない、なくてはならない存在……それは他ならぬ、ネコのぬいぐるみである。

そう。フサフサの毛が綺麗な、ネコの特大ぬいぐるみ。その名も“ハヤト”という。お父さんが外国へ行く前の日、私が寂しくないようにと買ってくれたもの。ちなみにハヤトというのは最初からついていた名前だ。お店の片隅でちょこんと座っていたのを見つけて、これにしようと決めた。一目惚れだったと思う。彼には、人を惹きつける何かを持っていたのかもしれない。ぬいぐるみなのに。

それからというもの、私たちはずっと一緒だった。大きいから、どこかに持っていくことはなかったけど、勉強する時、寝る時、起きる時……いつも隣にはハヤトがいた。中学生、高校生にもなってぬいぐるみって……と思うかもしれない。けれど両親がいなくて不安だった私の支えは、いつもハヤトだった。悩み事をハヤトに話すと気分が楽になれたし、寂しい時ハヤトを抱き締めると安心できた。ハヤトの傍ににいるとなぜか満たされる自分がいるんだ。他のぬいぐるみではそうはならないのに。

きっとハヤトは不思議な能力を秘めているんじゃないかと思う。我ながら幼稚な考えだけど、でもそれくらい、私の中のハヤトは大切で大切で仕方がない存在なんだ。



『今日も守ってくれてありがとう、ハヤト』



そう言って、ハヤトを抱き締める。
夜、寝る前にはいつもこうするのだ。そして、一緒に寝る。これが私の日課。いつだってハヤトは私を守ってくれているような気がするから。ハヤトは、私のヒーローだ。

時計は午後11時をまわった。
私はハヤトを抱いたまま、ベッドへ横になる。



『おやすみなさい』



ハヤトに顔をうずめながら、私はゆっくり瞳を閉じた。

明日も素敵な一日になりますように。







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始めてしまったHAYATO連載……
ぼちぼちと進めていく予定です(^^)





2013.02.18.

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