Long

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『なんであんなに変わっちゃったんだろう』





さて、時は変わりまして今は昼食タイム。早乙女学園での初ランチわっしょい!と、胸を躍らせて食堂へやって来たのはいいのだが、あまりの広さに思わず固まってしまいましたよ。おまけに支払いはカードとか、最近のシステムってすごいなぁとどこぞのお年寄りみたいに感動していた私。そんな私を「早くして下さい、蹴りますよ」と言う(というか既に蹴ってる)トキヤに連れられ、ようやく食事にありつけた。あ、カレー美味しい。

私が黙々とカレーを頬張っていると、どこからか響いてきた女の子たちの黄色い声。反射的に声のした方へと視線を移せば、遠くに見える人だかり。その中心の、独特なオレンジ色が目に入った。

まぁ見なくてもわかることだが、例のオレンジくんが今朝のように女性群を引き連れて行進中というわけだ。よくもまあ初日であんな風になるものだ。フェロモンとかいろいろ何かを出しすぎているせいなのかな。どちらにしても女の子の中心で悠々と歩く彼に、昔の彼はもういなくて。
そしてつい独り言のように出てしまったのが冒頭の言葉だ。いきなり抱き締めてきたり、手に、き、キスとかしてきたり。昔の彼からはとても考えられなくて。人は成長するのが当たり前で、変わることだって当然かもしれないけど、それにしても変わりすぎじゃないのか。





「レンのこと、ですか?」





独り言のつもりだったんだけど、どうやら前の席に座るトキヤにも聞こえてしまったらしい。彼の眉がぴくりと動いた。彼の問いかけに私が小さく頷くと、眉間に深いシワが刻まれた。こっ、怖いよトキヤ!





「……まさか貴方の“作曲家になるきっかけ”が、あのレンだったとは。しかも、過去に一度しか会ったことのない相手だったのでしょう?」


『う、うん。たまたま家族と横浜に行った時に公園で会ったのがオレンジくんで……。なんか、自分でもびっくりだよ。あのオレンジくんが神宮寺財閥の三男とか』


「……そのオレンジくんというのは、名無しが付けたんですか?」


『そうだよ。……そういえば私は自己紹介したけど、オレンジくんの名前聞いてなかったなぁ。聞くよりも先にニックネーム付けちゃったし』





オレンジ色の髪がすごく印象的で、とっさに口から出てしまった彼のニックネーム。今思えばあながち間違ってはいなかったから、なんだか笑えてしまう。

でも、そのオレンジくんが一緒の学校に入学して、しかも私のことを覚えていてくれて。まぁ抱き締められたりしたのはハプニングとして、それでもこの私たちの再会はすごいことなんだなぁ改めて思った。





『……はっ!これが俗に言う“運命”ってやつなのかな!?』


「知りませんよ、そんなの」





だとしたら私は感動だ。運命なんて、本当にあるものだと思っていなかった。どうしよう!もしそうだったとしたら、私すごくない!?
顔を上げてトキヤに聞いてみたら、ぴしゃりと冷たい返事が返ってきた。おまけになにやら険しい顔で睨まれる。え、おかしいでしょ。





『なんで怒ってるの、トキヤ』


「別に怒ってません。……運命だか何だか知りませんが、とにかく今朝みたいな騒ぎは二度と起こさないようにして下さいよ」


『う……、あれは私のせいじゃなくてオレンジくんが』


「関係ありません。貴方が普段から呆けているのが悪いんです」


『ほ、呆けてなんかないよ!』





私がムキになって食い下がろうとしても「何言ってるんですか、いつもボケボケでしょう。自覚しなさい」と言い放ち、トキヤは止めていた箸を再び動かし始めた。くっそう、自分は言いたい放題言っておいて、私の意見は無視ですか。この自己中め。

というか、トキヤとオレンジくんって顔見知りだったのかな。さっきもトキヤ、オレンジくんのことを“レン”って呼び捨てにしてたし、オレンジくんも──

………………。





『“イッチー”ってなかなかユニークなニックネームだよね』


「……それがなんですか」


『これから私もイッチーって呼んでいい?』


「駄目です」


『ねぇイッチー、』


「やめて下さい」


『いいじゃんイッチー!なんかサンドイッチーみたいで!』


「やめて下さい」


『サンドイッチー!でも今食べてるのは五穀米!なんか女の子みたいだね!!』


「………………」





ふふん、どうだトキヤ!何も言い返せまい!!よし、これからトキヤをからかう時はサンドイッチーと呼ぼう。
そんな優越感に浸りながら自分も残りのカレーを口に運んでいく。うん、やっぱカレー美味しい。





「隣、いいかな?」


『あ、どうぞー。ねぇトキヤ、今度カレー頼んでみなよ!すごく美味しいよここのカレー!!』


「………………」


『五穀米より全然、……って、トキヤ?』





トキヤからの返事がない。あれ、もしかして拗ねちゃった?
顔を上げると、驚いたようにこちらへ目を向けるトキヤがいた。しかしトキヤの視線の先は私ではなく、その右隣で。



つられるように顔を右へ向けた私の視界に映ったのは、あの独特なオレンジ色。





『…………え、』


「へえ、じゃあ俺も明日はカレーを頼んでみようかな」





にっこりと微笑みながら隣で優雅に座る彼は、間違いなくオレンジくんだった。










─ ─ ─ ─ ─



トキヤとの絡みが多くてまさかのオレンジくん行方不明っていう(汗)
1日遅れだけどオレンジくんお誕生日おめでとう!!












2013.02.15.

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