Long

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少し、やりすぎちゃったかな?

俺は目の前で石のように固まる彼女を見てそう思った。


そして再び教室がざわつき始めた時、バァンッ!と、まるで雑音を遮るように教室の扉が開かれた。

すると清々しいほどに室内が静まり返って。
一斉に集まる視線。その先には、一人の長身男が立っていた。



(ふーん…この人、ね)





「ったく、成績優秀クラスが聞いて呆れるな。いつまで騒いでんだ、とっとと席に着けー」





彼──日向龍也先生(リューヤさんでいいよね)の気だるそうな声がかかり、生徒たちはぞろぞろと自分の席に戻っていく。


さて、俺も座らなくちゃいけないんだけど…





「ほら、名無しも早く席に着かないと怒られちゃうよ?」


『………、はッ!!』





まずは目の前で立ち尽くしている名無しにそう声をかけた。
するとやっと我に返ったらしく、彼女は顔を真っ赤にさせながら駆け足で自分の席へと戻ってしまった。

その小さな背中を見送り、俺も席に着いた。入学初日から怒られるのは嫌だからね。







* * *





みんなが静かになったところで、リューヤさんが話し始める。学園の設備だとか、アイドルコースや作曲家コースのことなど、厳しい口調ながらも細かく説明をしていた。


そんなリューヤさんの話に耳を傾けつつも、俺はずっと彼女を眺めていた。

自分の席と少し離れた斜め前に座る、小さな彼女。


彼女はリューヤさんの話を、それはもう後ろからもわかるくらい熱心に聞いている。ちらりと見える横顔がキラキラと輝いているように見えた。




10年前、しかも会ったのは一度きり。それなのに彼女が名無しの名無しだとわかったのは、それだけ彼女が俺にとって大きな存在だったから。

大人っぽくなるのは当たり前だけど、あの時の面影は確かに残っていて。



(ほんと、変わってないな、)

キミのその熱心なところも、優しいところも、コロコロと変わるその表情も、全部あの頃と同じで。


なぜか自然と心がぽかぽかするんだ。



…あ、そういえば名無しも俺のこと憶えててくれて嬉しかったな。
誰ですか?なんて聞かれたらどうしようかと思ったよ。

でも憶えていてくれたってことは、彼女にとっての俺の存在もそれなりに大きかったってことかな?なんて思ったら自然と頬が緩んでしまって。


俺は慌てて口元を押さえた。




本当に、不思議な子だな。

なぜこんなに、心が満たされるのだろうか。
彼女がいるだけで、俺の視界は鮮やかに色づき始める。
この感覚は、昔のそれとまったく同じもの。



早く、彼女と話がしたい。
話したいことがたくさんあるんだ。

そしてまたその小さな体を抱き締めたい。でもそうしたら、またキミは真っ赤になるのかな?





「──それと、この学園には絶対破ってはいけない掟がある」





そんなことを考えながら俺が必死に笑いをこらえていると、不意にリューヤさんの声が耳に響いて。

顔を上げれば、先刻よりも一段と険しい表情になった彼と目が合った。





「それは恋愛絶対禁止令だ!男女交際は一切認めねぇ。万一交際が発覚したら、その時点でそいつらは退学だ。この学園から出ていってもらうからな!」





早口でそう叫ぶリューヤさん。
その迫力に圧されたのか、誰も何も言わず、再び教室は静まり返った。



“恋愛絶対禁止令”

まぁ当然のことだろう。
ここでの恋愛は、すべて夢の妨げになる。自分にとっても、相手にとっても。


俺も一応はわかっているつもりなんだけど、どうやらリューヤさんは俺が一番怪しいと思っているみたいだ。

別にいいんだけど、そんな怖い顔で睨まなくてもいいじゃないか。ねぇ?




それに、俺は本気の恋なんてしない。

もちろんレディたちは好きだよ?でも、それ以上にはならない。
俺は、レディたちを喜ばせてあげたいだけなんだ。レディが望むなら俺はいくらでも愛の言葉を囁くし、キスだってする。



え?名無し?名無しは他のレディとは違うよ。


彼女は、俺を救ってくれたのだから。

彼女は俺の“恩人”だ。








そう。


恩人、なんだ。










― ― ― ― ― ― ― ― ― ―





うわぁ、更新いつぶりだよ…;;
お久しぶりですオレンジくんでございます←

とにかくオレンジくんは疎い!
ただそれだけです!!











2012.09.08.

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