Long
□06
1ページ/1ページ
ど、どうしようこの状況。
オレンジくんに突然抱き締められてから数秒が経過したけれど、私の頭は完全にフリーズしていた。
いくら彼が知っている人とは言え、異性に抱き締められるなんて初めてで。
しかもこんな大勢の前で(女子が怖い眼で見てるよ!)。羞恥プレイにも程がある。
『っ、あの……ッ!』
抵抗を試みるが、オレンジくんはびくともしない。むしろ腕の力は強くなる一方で、更に密着してしまう体に心臓が跳ねた。
だんだん息も苦しくなってきて、もういろいろと限界を感じた。
するとその時。
「いい加減にしなさい」
ひっくい声とともに、引き剥がされた私とオレンジくん。
私は急いでオレンジくんから離れて酸素を肺に送り込んだ。
仏頂面で目の前に立つトキヤが、今日は神様に見えました。
「レン、少しは場所をわきまえなさい。ここはアイドル養成学校なんですよ?入学早々おかしな問題を起こされたら困ります」
「……あぁゴメンゴメン。つい嬉しくてね」
トキヤは怖い顔でオレンジくんを睨んだけど、オレンジくんはただ苦笑をこぼしながら肩をすくめるだけだった。
トキヤに睨まれても平然としているなんて、すごい人だなオレンジくん。
私なんて土下座しちゃうからね。その場で。
「さぁ名無し、席に戻りますよ」
ほんとにトキヤの目がこっちに向いたからビビった。
マジで怖いそして眉間の皺が半端ない。
ギロリっていう音が聞こえたのは気のせいだよね、きっと。
冷や汗を流しながら私が小さく頷けば、トキヤは何も言わずに背を向けてスタスタと自席へ戻っていった。
とりあえずは助かったみたいだ。
ほっと胸を撫で下ろし、私も自分の席(まぁトキヤの隣なんだが)に向かおうとした。
けれど、いきなり誰かに手首を掴まれて。
びっくりして振り向けば、そこにはなぜか眉間に皺を寄せたオレンジくんが立っていた。
あ、なんかトキヤみたい。
『あの……?』
「…イッチーとは、どういう関係なの?」
『い、イッチー…?』
「一ノ瀬トキヤのこと。…なんか仲良さそうだなと思ってね」
『え?いや、だだの幼馴染みですけど……』
なんでそんなこと聞くんだろう?
それにしてもイッチーって……。なかなかユニークなニックネームだなぁ。
いろいろ考えながらもそう答えると、オレンジくんはまたニッコリ笑った。
「そっか。…んじゃ、名無し」
『は………っ!?』
オレンジくんは私の手首を自分の方へ引っ張り、あろうことか手の甲にキスを落とした。
再びフリーズする頭。
でも、女の子達の悲鳴と、トキヤの「レンっ!」という怒鳴り声は聞こえた。
そんな周囲に構わず、彼はパチンと綺麗なウインクをして見せて。
「これから一年間、よろしくね」
これからの学園生活は、なんだか大変なことになりそうです。
2012.05.30.