Long
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それから俺は、彼女にいろんな話をした。
母のこと。父のこと。家のこと。
泣いていた理由も話した。
こんな話、聞いてもつまらないだけなのに、目の前の彼女は親身になって俺の話を聞いてくれた。
「俺は三男だから、誰からも必要とされない存在なんだ……!」
俺は、強く拳を握りしめた。
悔しかった。認めてほしいのに、父は俺を見向きもしてくれない。どんなに頑張っても、努力しても、結果は同じ。
なんのために俺は存在しているのか、わからなくなった。
「俺は………、ッ?」
ぎゅっ、と。
固く結んでいた拳が、突然何かに包まれた。
俺の前には、涙を浮かべた彼女の姿があって。俺は思わず言葉を失ってしまった。
「…私にはお母さんがいるから、キミの苦しみなんてわからない。
……でもさ!」
彼女の頬に、一筋の涙が伝う。
あまりの迫力に、俺は息ができなかった。
「誰からも必要とされてないなんて、言っちゃダメだよ」
「……っ」
「少なくとも私は、キミと会えて嬉しかった。素敵な歌が聴けて、嬉しかったんだよ?」
そして彼女はへらりと笑って。
「それはキミがいてくれたおかげだから。ありがとうオレンジくん」
「っ………オレンジって、」
「えーっ!?だって髪の毛とかオレンジ色じゃん!変かなぁ?」
「変だよ、ほんと……はは…っ」
本当に、不思議だ。
彼女といると、今までぽっかりと空いていた心が、嘘のように満たされていく。
今日出会ったばかりなのに、だ。
それは、彼女の優しさひとつひとつが、母と重なるからだろうか?
母親の愛情というものを、彼女を通して感じていたからだろうか?
否、違う。
俺の母親は俺の中でたった一人で、誰も代わりなんかいない。
じゃあ、この感情はなんだ?
彼女といて感じた、この気持ちの正体は?
「そういうキミの名前は?」
「わたし?私は、」
──そうか。
俺は、いつの間にか。
自分を心配してくれた彼女に
自分を注意してくれた彼女に
自分のために泣いてくれた彼女に
「名無しの名無しだよ」
彼女――名無しの名無しに、どうしようもなく惹かれていたんだ。
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とりあえず過去編は終了です。
レン(小)の性格とか口調が全然わからない(>_<。)
多分まだピュアなはず!と思って書いたんですが……。
2012.05.10.