Long

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「ねぇ、」


「ッ!?」





ひとりだと思っていたのに。

不意に顔を上げたら、そこには、一人の少女が立っていた。


俺と同じ歳くらいの可愛らしい少女は、心配そうに眉を下げながら俺の顔を覗き込んでいる。

俺は慌ててイヤホンを外し、涙を強く拭った。





「ねぇ、なんで泣いてるの?お腹痛いの?」


「ッううん、違う。痛くないよ」


「ほんと?どこも痛くない?」


「うん、痛くない」





俺がこくりと頷けば、彼女は安心したように微笑んだ。


笑顔がよく似合う子だと思った。





「…でも、どこも痛くないのにどうして泣いてたの?」


「え、と……これ、聴いてて」





そう言って、先程まで聴いていた音楽プレイヤーを見せた。





「…歌?歌を聴いてたの?」


「うん。聴いてみる?」


「聴く!」





そして俺は、彼女にイヤホンを渡して、再生ボタンを押した。




どうしてだろう。

俺だけの歌なのに、この子にも母の歌を聴いてほしいと思った。




俺のことを、知ってほしいと思ったんだ。







* * *





曲が終わったらしく、彼女はイヤホンを外してゆっくりと瞼を開いた。





「…それ、俺を産む前に母さんが作ってくれた歌なんだ」





すると彼女は、またにっこりと明るい笑顔になり。





「そっか、すごくいい歌だった!愛がいっぱい詰まってるね」


「え、愛……?」


「そう、愛!この前ね、お母さんが私に歌を歌ってくれたんだけど、その歌を聴いて心がすごくぽかぽかしたんだ。今の歌もそれと似てた!」


「………」


「きっとキミのお母さんは、キミのことが大好きなんだねっ!」


「……ッ、うん」





なんで、そんなこと言えるのだろうか。赤の他人なのに。



でも、その言葉が嬉しくて。








俺はまた泣いた。








そのとき背中をさすってくれた彼女のぬくもりに、なぜか心がぽかぽかした。











2012.05.10.

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