初恋

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きっかけは先生の一言だった。

授業終わりに次回までの宿題の範囲を言っていた先生はふと目を伏せて笑う。

「なんだか宿題出す度にみんなの視線が冷たくなってる気がするよ……先生ってこうやって生徒に嫌われているんだなぁ…」

当然教室にいた生徒誰もが「古典のことは嫌いになっても、東先生のことは嫌いになりません」と心の中で涙ながらに叫んだことだろう。だが、そんな声が届くはずもなく、先生はシュンとした表情のまま教室を去っていった。

(逆に誰が先生のこと嫌いになるんですか…)

若干目にかかった茶色い髪を払って窓の外に広がる澄んだ青空を眺める。いつもだったらこうやって無になるように眠りにつくのだが、今日は何故か落ち着かない。どこを眺めても浮かんでくるのは東先生の悲しげな表情だけで。

(なんなんだろう…もう)

言うことをきかない頭にイライラしながら窓に映る自分の顔を睨みつける。だがそれも長続きはせずに頭を掻きむしった。ふと浮かんでくるその悲しげな顔に向かって心の中で語りかける。

(誰が嫌いになんてなるものですか…嫌いどころかむしろー…)

頭に浮かんだその2文字を異常な感情だと気付くまでにはそう長くはかからなかった。気の迷いだと信じて記憶から抹消しようとする。だが完全に頭の中を支配したその人を排除するのは不可能に近かった。サァ、と自分にしては珍しく顔を青くする。大体、根本的におかしい。性別がおかしい。本来俺がこの感情を抱くべきなのは漫画に出てくるような可愛らしい女の子のはず。…それがどうした、なんだこの気持ちは。

年上。

教師。

極め付けは、男。

どういうことだ。

次の授業の始まりのチャイムが鳴り響いた。

号令の後の「着席」の合図で机に重い頭を伏した。

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