K

□一人ぼっち
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すっからかんで洒落た部屋の隅で膝を抱え込む。


震える肩を押さえ、嗚咽が漏れるのを必死に堪えて、視界をかすめさせていた液体を拭った。


顔を上げても誰も居ない。


部屋は真っ暗で、物音一つ聞こえない。


ふと、カウンターに綺麗に並べられたグラスを見て、フラッと立ち上がった。

その中の一つを手に取り見つめると、丹念に磨かれたそれに映る腫れぼったい顔をした者と目が合って思わず手を離した。

それは他でもない自分の顔だったのだが。

パリン、と乾いた音が響いた。


『あっっウソ━━━━━━ン!!何してくれちゃってんの八田ちゃん!!!!!これ18××年フランス製で…』


頭の中で草薙さんの説教が聞こえた。

しかし今、俺を怒る人も、そんな俺を見て笑う仲間もいなかった。

俺は全くの一人ぼっちだった。


「なんだよ!!!なんで誰も居ないんだよ!!!!!っもう!!!」


ポロポロと零れ落ちる涙を、もう止めようとはしなかった。

綺麗に並べられたグラスに嫌気がさして、カウンターに腕を滑らせる。すると並べられていたグラス達は無造作に崩れ落ちた。


「あーーーーーー!!!!!!!!」


絶叫に近い奇声を上げても、ただ壁にふつかってすぐ戻ってくる。

ついにはワインのボトルも手に取りカウンターに叩きつけて割った。

飛び散った赤い汁からする渋い香り。

手から滴るそれを舐めた。

ほんの少しだけ、ガラスで切れた腕から流れる血の味が混ざって、鉄の味がした。


血の混じったワインを舐めながらふと思った。

このまま死んじゃえばいいんだ、と。

どうせ自分が死んでも悲しむ人はもうここにはいないし、自分1人でこのクランは守りきれない。

さっき割ったワインボトルの先端を手首に押し当てる。じわじわと赤が滲んできた。

「すいません、尊さん、十束さん、草薙さん…俺1人じゃなんにも出来ないっす……みんなの大事なクラン、守れなくて、す、すいま、せん…」

急に昔のことが思い出された。みんなで笑い合った日々がつい昨日のことのように思えた。


その時だった。


もう聞くはずのない鐘の音が聞こえたのは。

カランカラン、と場に合わない明るいベルが鳴ると同時に聞いたことのある懐かしい声がした。

「美咲!!!!」

俺を下の名前で呼ぶ奴なんてお前しかいねえよ。

「猿…比古…」

大嫌いだ。

大嫌いなはずなのに。

溢れ出す涙を止めることはできなかった。

猿比古はすぐに俺の手からグラスの欠片を取り上げ、息が苦しくなるほど強く俺のことを抱き締めた。俺の肩に顔を埋めて、すすり泣く声が聞こえる。じんわりと服に暖かい液体が滲んでいって、雨のようにぽつぽつと模様をつけた。

「ごめん…ごめん、美咲」

なんでお前が謝るんだよ。

「もっと早く気付いてあげられなくて、ごめん…」

血の滲む箇所に優しく触れられる。

「俺…、一人ぼっちじゃなかったんだな」

そう呟くと彼はおもむろに顔を上げ、俺の肩を強く掴んで、珍しく大きな声で叫んだ。

「一人ぼっちなんかじゃないだろ!お前俺のこと忘れたのかよ!!」

そうか…俺にはこいつがいたんだ。

血管が切れるくらいムカついて、

笑顔まで憎たらしくて、

でもいざという時には優しくて、

若干ストーカーチックで、

1番俺のことを知ってて、

1番俺のことが大好きな男。


そして俺はそんなお前が好きだった。


俺は笑った。


「なあ猿比古!」


猿比古は驚いた顔でこちらを見た。


「前みたいにずっと一緒にいてくれねえか?」


猿比古はすぐに優しい笑顔に戻って頷いた。


「ああ」


end






あとがき

Kイベのレポで劇場版の予告(?)の話を聞いて咄嗟に浮かんできた話です。草薙出雲が草薙何処になるんですよね分かります。
最終的にうまくまとめられなくてすいません。
簡単に言えば、誰もいなくなっちゃって八田ちゃんが発狂して、心の隙間に猿がモゾッてきたってことです。
この後の2人がどうなるのかどうしても思い浮かばなかったので、読んでいただいた皆さんにお任せしようと思って後半濁させていただきました。
少しでもお楽しみいただけたなら嬉しいです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!

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