うたプリ
□宝石の落とし物
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※嶺二:ただのお弁当屋さん
蘭丸:ホームレス
同窓会の帰り道。
普段はめったに通らない裏通りに入った。
大好きだったあの子がもっと美人さんになってたなぁとか、あいつは相変わらずお馬鹿さんだったなぁとか、どうでもいいことを思い出しながら余韻に浸った。
気付くと自分は裏通りの一角、ホームレスの溜まり場のようなところに居て、派手な服を着て酒の匂いのする僕は冷たい視線を浴びた。居心地が悪くて、そそくさと立ち去ろうとする。するとふと、その場に不釣合いな派手な男が目に入った。
無造作にはねた銀色に近い髪と、宝石のようなオッドアイ。美しい、の一言に尽きた。
視線に気付いたのか、ピク、と肩を揺らしてこちらを見上げて睨みつけた。
「なんだよ」
薄い唇から簡潔に文字を紡ぐ。ぶっきらぼうだが、綺麗な声をしていた。僕は頭を掻きむしって笑いながら、
「いやー、君があんまりにも綺麗だったからさ!」
と、まるでナンパするかのような口調でそう答えた。
彼はみるみる顔を赤く染め、不機嫌そうにそっぽを向いた。
「ふざけんな…大体お前みてえなのが来る場所じゃねえよ。持ってるモン、スられんぞ」
気を遣ってくれているのか、聞こえるか聞こえないかぐらいの声でボソ、と呟いた。だが僕はそんなに素直に帰る訳にはいかない。こんな出会い、次にいつあるか分からないしね!
「何々〜?心配してくれてるの??お兄さんうーれしーっ!!」
怒られるのを承知でやり過ぎなくらい声を張った。その後も、「そんな服が買えるのにどうしてこんなところにいるのか」とか、「実家はどこだ」とか、色々質問攻めをした。彼はその全てに、「興味ねえ」「知らねえ」「お前には関係ねえ」で答えた。何十個目か分からない質問を投げかけようと口を開くと、彼は僕が質問するよりも先に怒鳴り散らした。
「何だよ!お前初対面のくせにうるせーな!落ちたモン食ったり使ったりしてる奴ばっかいるような所になんでお前みたいな酒臭え男が居んだよ!意味分かんねえ!つか大体誰なんだよお前!」
ごもっともである。
僕は笑いながら、
「寿嶺二」
と答えた。
そうじゃなくて、と慌てて僕を家に帰そうとする彼は、僕の身を案じてくれているのだろうか。ついつい口角が上がる。
僕は彼の白い手首を掴んで立ち上がった。
彼は驚いて目を丸くし、僕のことをじっと見た。その目が「なんで?」と訴えかけてくる。
「ん〜?なんかここに君が落ちてたから持って帰ろうかな〜っと思ってさ!」
人差し指を口元に当てて、わざと大袈裟に考える顔をした。
彼はまだ驚いているようだが、彼のさっきの話を聞くと、この裏通りに落ちている物は割とみんな自由に利用しちゃってるらしいし、この裏通りのルールには違反してないよね?
頭の片隅で"誘拐"という単語がチラついたが、それは気にしないことにした。
そのまま引っ張って行けば彼は抵抗の素振りを一つも見せず、僕の服の匂いをクンクンと犬のように嗅いだ。そうかと思えばゴク、と喉がなる音が聞こえ、
「いい匂いする…」
なんて可愛いことを呟いてみせた。彼の発言は唐突で少し戸惑ったが、
「え?僕、香水つけてないよ?」
と答えた。
すると彼は首を左右に振った。
「違う…唐揚げの匂い」
ぎゅるる、と聞こえた腹の音に目を細め、足を早める。
「僕ん家の唐揚げ、絶品なんだから!覚悟しなよ!」
END
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嶺ちゃんに拾われるランランのお話でした。