うたプリ
□抱擁
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困った。
俺はその軽く柔らかい半紙を両手で持ち、カタカタと震えていた。
半紙には達筆で
『抱擁』
と堂々と書かれていた。
何があったかと言われれば、さほど難しい話ではない。
つい先ほど、和風な方のお坊っちゃまが顔を真っ赤にしながらこの半紙を手渡していったのだ。
前々から抜けてるとは思っていたが、ここまでくると挙動不審である。意味が分からない。
一度はゴミ箱に入れようと思ったものの、あまりの達筆に圧倒され、どうしても捨てる気にならなかった。
色気ムンムンの方のお坊っちゃまはその様子を見て「優しいね〜」と笑っていた。
いや、優しいのではない。
どうすればよいか分からないだけだ。
とりあえず自称御意見番の嶺二に連絡を入れる。
「えっ何々!!ランラン僕に相談があるの!?いいよ聞く聞く!!聞いてあげちゃうよ〜僕!!何??教え
うるさくて話にならないので、つい電話を切ってしまった。謝る気もないが。
そこに「どうしたのランマル」と藍が入ってきたので、1番真面目に答えてくれそうな彼に相談することにした。
「抱擁?…抱きしめるって意味だよね。抱きしめる…抱く……抱かせろって意味じゃないかな?」
「意味が分からないからもう一回」
困った。
困った困った。
後輩から「抱かせろ」と堂々と他人にバレバレなお下品ラブレターを貰ってしまった。
そんなことをしているうちに、問題の張本人が自らやって来た。
ゴクリと喉を鳴らして構える。
そう簡単に童貞を捧げる訳にはいかない。
真っ赤な顔で近付いてきた彼は、おどおどとした声色で言った。
「字の評価、いただけますでしょうか…?黒崎先輩」
一瞬目を見開いてしまったが、なるべくいつも通りに答えた。
「ああ、いいんじゃね?字、上手いな」
「ありがとうございます!」
そうだ、そうだよ。
だって真斗だしな。
そして藍の部屋に反乱を起こしに行くのであった。
END
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人の心情はデータでは表せませんからね。