うたプリ
□聖川少年の事件簿
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「おい那月…お前何してんだよ…」
「何ッテ、何ガデスカ?ウィーン、ウィーン、ガチャン」
翔は目の前で緩いロボットダンスと謎の言動を繰り出す那月を見てため息をついた。
「何してんだって聞いてんだよ!何て反応すればいいか分かんねえだろうが!!」
血相を変えて叫ぶと、那月は一瞬だけポカンとしてからすぐに微笑んだ。
「藍ちゃんのマネです!」
「「は?」」
存在を忘れかけるほど静かにパソコンをいじっていた藍が眉を顰めた。
「ふうん…本人がいる前でそんな低クオリティのモノマネを見せるなんていい根性してるね」
「ふふっ、似てるでしょう?」
「ねえ、人の話聞いてた?」
「?はい」
表情や声音に大きな変化が無くてもふつふつと伝わってくる苛立ち。
「もういい那月お前静かにしてろ…藍怒ってるって…」
「え、なんでですか?」
那月を黙らせて、本日数回目のため息をついた。
「それにしてもヒマだぜ…」
「アイドルにあるまじき台詞だよねそれ」
無表情で言い放つ藍を一瞥してポケットから携帯を取り出した。
「仕方ねえだろ、つか仕事明けだし。昨日までは大忙しだったっつの。一応久々のオフなんだぜ?」
「他のメンバーは?」
「それを聞こうと思って携帯を出したんだ!藍お前今日やけに話しかけてくるな…さてはヒマだろ?」
少し前に乗り出してニヤ、と笑うと藍は表情一つ変えずに、
「僕にだってオフはあるからね…ていうか暇じゃないし。今だってデータ収集に忙しいんだから」
「あ、そ」
「分かったならさっさとそのデカい馬鹿を連れてどっか行ってくれない?」
藍はチラッと部屋の隅に目をやった。
「ピーヨちゃん!今日は何して遊ぶ?……うんうん、いいですよ!藍ちゃん!ピヨちゃんが藍ちゃんにギューってしたいみたいなんです!いいですか?」
「やめて」
「それは困りましたねえ…ん?どうしたのピヨちゃん?……うん、分かった!ピヨちゃん今日は翔ちゃんで我慢するって言ってます!」
「いーやーだ!!!つかその言い方気に入らねえ!!!!我慢って何だよ我慢って!!!!!」
顔を真っ赤にして叫ぶと、藍が的確な意見を挟んでくる。
「ていうかその短い腕でどうやって抱き締めるかっていうのが疑問だよね」
「確かにそうですね…どうしましょう?」
「いや真剣に考えんなよ」
▼那月相手にツッコミ2人では足りない。翔はどうする?
逃げる
たたかう
▷援軍を要請する
(そうだ…!助けを…!!)
「分かりました!ピヨちゃんの代わりに僕が2人をギューってしますね!!」
「何も分かってねえじゃねえかアアァァァァ!!!!!」
マッハで駆け抜けた藍を見ると那月は残念そうに口を尖らせた。
「なんで藍ちゃんは逃げるんでしょう…?」
「条件反射だな」
「そういうことで翔ちゃん!!ギュっとさせてくださああぁい!!!!!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!!!!」
謎の運動神経を発揮する那月を横目に部屋を飛び出した。
「誰でもいいから!!!!!俺様を助けろ!!!!!」
電話帳から適当な番号を選んで猛スピードでかける。
「くっそ!!!!出るの遅えな!!!こっちは命に関わる大ピンチだっつのに!!!!」
すぐ近くから追いかける足音が聞こえてくる。
酷い執着心である。
「俺様からの電話にはツーコールまでで出やがれ!!!!ぁ、もしもし!!!!助けてくれ!!!誰だか分かんねえが助けてくれ!!!!」
息を切らしながら携帯電話に向かって叫ぶと、聞こえてきたのは思いがけない声だった。
〈助けてくれって翔ちゃん何かあったんですか?今助けに行くので待っててください!〉
「って那月かよ!!!!」
焦りとイラつきで持っていた電話を地面に思い切り叩きつけた。
「くっ…」
もう何分走っただろうか。このまま逃げているだけだと状況は一向におさまらない。
と、そこにドアが半開きになっている部屋を見つけ、翔は思い切って滑り込んだ。
「悪い!邪魔する!」
運が良かったのか悪かったのか、その部屋には見覚えがあった。
「おチビちゃん?」
ポカンと口をあけるレンを見て安心したのかもしれない。腰が抜けて座り込んだ。
「またシノミーかい?」
レンが心配そうな顔で駆け寄ってきて背中をさすってくれる。
「小さいってのは災難だねえ」
「っるせ…」
息が切れてまともな反抗も出来ず、されるがままに背中を預けた。
「落ち着いた?」
ゆっくりと呼吸を整えてから、レンが淹れてくれたコーヒーに口をつける。
「ああ、サンキュ!助かった!」
「それは良かった!困ったことがあったらいつでもおいで!」
「ああ」
ちょっとの間があいて、レンが思い出したように口を開いた。
「そうそう、おチビちゃんの部屋に聖川が行ったと思うんだけど…見なかったかい?今度共演するバラエティの打ち合わせの資料が何とかって」
「マジで?入れ違いになっちまったかもしれねぇ…悪い」
建物の中を逃げ回ったが真斗の姿は一度も見なかった。
「いや、おチビちゃんが謝ることじゃないよ。なかなか帰って来なくて心配してたんだ。聖川はああ見えて少し抜けてるからね」
「そうだよな…」
確かに初めて会った時は堅苦しくて厳しそうなイメージだった真斗も、今では安定の天然ボケキャラである。Aクラスだった奴は大抵そんな感じだ。
しばらくして、突然地響きのような音が聞こえてきた。レンがすぐに立ち上がり、眉を顰めて翔の頭を抱え込んだ。突然のことにどうしていいか分からず手足をばたつかせるとレンは落ち着いた様子で、
「地震…」
と呟いた。
いや多分違うと思う、と心の中で思いながらも、自分を守ってくれようとしているレンの好意に応えなければという義務感に襲われて固まった。
案の定地響きが近づいてくると物凄い勢いで部屋の扉が開け放たれた。
「わーっ!!翔ちゃんったら僕よりレン君にギューってされたかったんですか!?」
「よし、シノミー落ち着こうか」
息を切らしながら話す那月を見て、レンは優しい声音で宥めるように言った。
「どうしてですか?僕は翔ちゃんをギューってしないとダメなんです!僕の翔ちゃんを返してくださいレン君!」
「シノミー…!?」
急に抱き締める手に力が入り、翔は息がつまった。
「おいっ…どうしたんだよレン…!」
レンに抱きしめられているために何が起きているのかさっぱり分からなかった。慣れない香水の匂いに思考回路を絡め取られる。
「様子が…おかしい」
レンが焦っているのは抱き締められた腕越しに伝わってきた。
と、そこに突然聞き覚えのある声が響いた。
「無事か神宮寺!!来栖もここにいたのか!!…間に合ったようだな」
「聖川…!シノミーが…!」
「ああ、分かっている。四ノ宮がそうなってしまった原因も、全て…。神宮寺、来栖を離してやれ」
「でも…!」
「大丈夫だ」
「っ…分かった」
ゆっくりと香水の香りが離れていき、初めて部屋の様子が目に入った。壊されたドア、荒らされた部屋、そして微笑みを浮かべて立つ那月。何故かは分からないけど寒気がした。
「おい聖川!何が起きてるんだ!」
近くにいた真斗にすがりつくように言った。ただ、那月が心配で仕方なかった。
「そうだな…。それでは話してもらいましょう。美風先輩、出てきてください」
「藍…!?」
「アイミー…かい!?」
真斗が呼ぶとすぐに藍が部屋に入ってきた。
「理由なんてないよ。ただの暇潰し、愉快犯さ」
「ってお前ヒマだったんじゃねえか!」
「それにしても真斗。よく僕だって分かったね、感心するよ」
「お褒めに預かり光栄ですが、後輩を使って危ない悪戯をするのはやめていただきたいです」
真斗が藍に向き直る。
「ああ、それなら大丈夫だよ。那月のやつは元に戻しておいたから。確かに変なモノマネの仕返しにしては度が過ぎたかもしれないね」
「つか藍…那月に何したんだよ」
「ああ、あれね。翔を抱き締めるまで追いかけ続けるプログラムに設定してみたんだよ」
「いやそれ那月への復讐っていうより俺へのイジメじゃ…って、聖川?」
ふと、隣で頭を抱えて膝をついている真斗が目に入った。
「どうしたんだい!?聖川!!」
「くっ…来るな、神宮寺!」
慌てて近付こうとするレンを横目に、翔は藍に掴みかかった。
「藍…お前聖川に何した!」
「相変わらず翔は馬鹿だね。僕は那月の設定は元に戻した、と言ったんだよ。真斗の設定を解いたなんて一言も言ってないし」
「てめぇ…!!」
すると座り込んでいた真斗が不意に立ち上がった。
「神宮寺!今日こそ貴様をぶち犯「そう!僕が企んでいたのは早乙女学園アンドロイド化計画だ!」
ーブチッ
「訳が分かりませんね、何ですかこれは」
「えっとー、DVD聖川少年の事件簿B美風藍の早乙女学園アンドロイド化計画」
「あ、題名で真相突き止めていたんですか」
「面白いのになんで途中で切るんだよトキヤ〜」
「だって貴方はもう一回見ているんでしょう?」
「そうだよ〜…この後僕らの嶺ちゃんが出てきて解決する展開だったのに〜…ちぇっ」
「何が僕らの嶺ちゃんですか…というか聖川さんが主人公なのに解決するのがあの人でいいんですか?」
「面白ければいいんじゃない?」
「はぁ…全く意味が分かりません」