うたプリ

□触らせてください
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*トキヤ:25歳フリーター。軽く引きこもり。若干変態
音也:19歳学生。レンタルショップでバイト中



街へ出れば声をかけられる。

「君、綺麗な顔してるね〜モデルとか興味ない?」

「ないです」

「君さ〜AV男優とかど

「やめてください」

なんで。



女子が騒ぐ。

「きゃーっあの人カッコよくない?」

「えっ1人で歩いてるよ!アドレス渡してきなよ!!あっあの!」

「彼女いるので、」

いない。


親は、自分が社会に出ていけてないことを心配しているようだが、外に出ることでさえ億劫なのに、そんなのハードルが高すぎる。
ただ、ずっと部屋に閉じこもっていても暇を持て余してしまうため、本屋くらいには行くことにしている。
この日も財布を持って本屋に向かった。
伊達眼鏡をかけ、深く帽子を被り、コートで口元を隠すというまるで芸能人のオフスタイルのような格好で街を歩く。
いつものように自動ドアの前に立つ。
しかしドアは反応しなかった。
これ案外恥ずかしいんですよね、と心の中で呟きつつも、目的を果たすためにはこうするしかなかった。
すると周りからクスクスと笑い声が聞こえてきて、心に焦りが生まれる。
数分の間があって、女子高生が話しかけてきた。

「あの〜…この本屋さん、今日定休日ですよ?」

「えっ」

間抜けな声が出た。
心優しい女子高生に礼を言い、そそくさとその場所から立ち去った。視界が狭くて定休日の張り紙が目に入らなかったようだ。

行き先を失った足はその近所を彷徨う。

(何処に行けば…)

慣れない都会の空気に戸惑っていると、太陽のような元気な声が響いた。

「ありがとうございましたー!」

それが私と、彼の出会いだった。


足はその声のする方向へ、意識しなくても進んでいた。その凛とした声の主を一目見るために。
たどり着いたのはどこにでもあるレンタルショップだった。戸惑いつつ店内に入ると、さっきと同じ声で「いらっしゃいませ!」と聞こえた。それが自分に向けてのものだと気付くまでにそう長くはかからなかった。

レジの方をチラッと見ると、一際目立つ赤髪の店員がいた。目が合ってしまい、すぐに逸らそうとしたが、彼が会釈をするほうが先だった。気まずさを感じて、軽く会釈を返してからDVDが並ぶコーナーへ足を進める。

適当な洋画のDVDを手に取って見るフリをして、彼の姿を思い出す。ツンツンとしていても柔らかそうな赤い髪、健康そうに焼けた褐色の肌、自分より一回りくらい小柄な身長、二重まぶたの奥に覗くつぶらな瞳。初対面なのに全てが愛おしく見えた。「綺麗な花は山に咲く」とはこういうことを言うのか、と改めて心に刻んだ。誰も、こんな綺麗な少年がレンタルショップなどでバイトをしているなんて思わないだろう。

気付くとDVDで顔を覆っていて、無意識のその行為に羞恥心を隠せずに、すぐそれを元の位置に戻して膝を抱え込んだ。はたから見たら挙動不審の怪しい人物である。別にこの店に用があった訳じゃないから帰ろう、と思って立ち上がったその時だった。

「お兄さん、大丈夫?」

聞き覚えのある声が響いて、反射的にその声のする方を見た。脳内でシャラララ〜というSEが流れた。

「あっ、えっと」

コミュニケーションを取るのが苦手だから上手く言葉が出てこない。そんなことも知らずに少年は心配そうに頭を傾けた。

「お兄さん、暑いのにそんな格好してるから熱中症になっちゃったんじゃない?それとも具合が悪くて寒気とか?冷房弱めた方がいい?」

突然の質問攻めにどう対応すればいいか分からず、とりあえず「大丈夫です」とだけ伝えた。
逆に貴方が近付くと体温があがってダメなんです、とは言えない。
それで終わればよかったが、彼はお人好しな性格なのか、やたらと絡んできた。

「あ、じゃあ風邪ひいた訳じゃないんだ!とりあえずその帽子くらい取ったら?不便でしょ?」

それを聞いてさっき張り紙が目に入らなかったことを思い出し、渋々と帽子を外した。
すると何故か少年は焦りだし、あたふたと私に帽子を被せた。

「?」

訳が分からず頭にはてなマークを浮かべると、

「も、もしかして、アイドルとかモデルの方でしたかっ…!?すいませんっ」

なんて顔を真っ赤にして言うものだから、その姿が可愛くてプッと吹き出した。

「いや、そんな大それたものではありませんよ。ただのフリーターです」

初めてきちんと話すことが出来た。
彼は安心しきった表情で「よかったー」と呟き、私の顔をまじまじと見た。

「お兄さん、モテるでしょ?」

また唐突な切り返しをされて言葉につまる。

「えっと、その」

そこに「こら!一十木!仕事しなさい!」という怒声が響き、目の前の少年は「あっすいません!」と言ってニコッと笑ってから仕事に戻った。

(一十木…か…)

胸に焼き付けるように何度もそう心の中で呟いて、DVDを一枚持ってカウンターに向かった。



その日はそのまま家に帰り、一十木君との出会いに時折口元を歪めてみせた。



その後何度か店に通い詰め、大体の彼のシフトを知った。そして金髪の小さな少年が「音也!」と呼んでいるのを聞いて、彼の名前が"一十木音也"であることが分かった。
彼を見る度に欲望が膨れ上がり、最初は「会いたい」というだけの感情だったものが、今では「触りたい」と一心に思うのだった。その褐色の綺麗な肌に。



ある日、また私はそのレンタルショップへ向かった。彼は私を見ると一目散に走ってきて、まるで子犬のようだった。勢い余って転びそうになったところで腕を掴むと、彼は何故か顔を真っ赤にして「ありがとう」と言った。なんて期待させるのが上手いのだろうか。感情が昂ぶる。少しでも意識してくれているのが嬉しい。私はその手を離せなかった。そして私の口はおもむろに、

「もっと、触らせてください」

と動いた。





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これは続けるべきなのだろうか…

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