うたプリ

□ビンボウヅル
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「ねえ、ランラン」

「あ?」

鬱陶しそうにこちらを見上げる透き通ったビー玉と目が合った。

「どうしたの?」

しゃがみ込んで雑草を弄る後ろ姿を腰を低くして見ていた。

「枯れた」

ぶっきらぼうに放たれた言葉には心なしか悲しみの色が見えた気がした。草が枯れて悲しむのなんてそんな純粋な幼稚園生みたいな心どこに持ち合わせていたのさ、とは言わない。

「そりゃ、枯れるさ。雑草でしょ?」

宥めるようにそう言うと、彼は舌打ちをして立ち上がり、僕のスネを軽く蹴る。

「いったぁ!!何々どしたの!!僕なんか変なこと言った!?」

するとガラの悪い目をもっと険しくしてそっぽを向いた。

「ずっと一緒だったんだよ」

ばつが悪そうに口を尖らせるその表情がなんだか可愛くて吹き出しそうになるのを堪えながら彼の頭をぽんぽんと叩いた。

「そっかそっか、ごめんね」

「別に…」

やっぱりランランはまだ子供なんだなぁ…かーわいっとか言ったら怒られるからやめとこ…

さっきまでランランが弄っていた雑草が目に入り、二股に分かれて伸びたツルにそっと触れた。そしてその雑草に見覚えがあることに気付いて口を開く。

「これ…ビンボウヅルだね」

「ビンボウ、ヅル…?」

眉間の皺を少しずつ和らげながら興味深げに近づいてくる蘭丸を見て、何年か前に植物図鑑を開いて貧乏臭い名前だと馬鹿騒ぎしていた自分に感謝した。

「そう、ビンボウヅル」

「は?お前馬鹿にしてんのか?貧乏な俺と一緒だからビンボウヅルだとか言ってるんじゃねえだろうな?」

また目つきを悪くし始めた彼を諭すように話を進めた。

「違う違う!これね、正式名称が藪枯らしっていう雑草なんだよ!二股に伸びたツルを他の木々に巻きつけて、繰り返しその身を枯らすんだ」

「そうか…悪い、変な勘違いして…」

慣れない謝罪の言葉を口にして黙りこくった。僕からの続きの言葉を求めるように。…でも、僕だって図鑑見たのなんかずっと前で…そんなに詳しくは覚えてないし…。必死で様々な記憶の扉を開いて情報を探す。やり場に困った目を彷徨わせていると、彼の綺麗な紫褐色の瞳が目に入った。

「ねえ、ランラン」

「あ?」

「この雑草、若葉の頃から見てたの?」

「…ああ…まあ」

「ビンボウヅルって、若葉の時はランランの瞳みたいに綺麗な紫褐色の葉っぱなんだよねぇ」

ニッコリ笑ってそう言うと、彼は口をキュッと結んで頬を染めた。

今となっては枯れて黒に近い色をしている葉だが、自分が図鑑で見た若葉の写真は雑草には珍しい綺麗な色をしていた。

またそっぽを向こうとする顔を両手で支えて、しっかりと合わせて言った。

「大丈夫。またすぐ同じ場所に嫌ってほど生い茂ってくるんだから。ランランだって一回枯れたくらいじゃつぶれないでしょ?ランランは雑草みたいに…いや、雑草なんかよりずっと強いよ!だから僕はランランが好きなの!」

すると彼は目を見開いてからスッと細めて白い歯を見せた。

「お前、なんで俺の話になってんだよ。何?告白?ったく…お前は…つくづく面白え…」

初めてそんな風に笑うランランを見て、胸がドキリと跳ねるのが分かった。あわてて両手を離し、あわあわと言葉にならずに口をぱくぱくと魚のように動かしていると、ランランはその笑顔のまま僕の両手をとって言った。

「こんな雑草、もういい。俺にはもう嶺二がいるしな」




END




あとがき
ランランが可愛いのは正義です

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