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□笑って任されて
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「まだ彼とは、付き合っているのですか?」


学校に行くため、ゴソゴソと用意をしている水和に投げ掛けられた問い。
彼――とは、聞かずとも誰かなんて分かりきっている。

彼女の兄 六道 骸に背を向けていた身体をクルリと振り返って向き合う。
骸がとても複雑そうな顔をしているのを確認してクスリと笑う。



「勿論。どうして?」
「聞かずとも分かっているでしょうに……何故よりにもよって彼なのか…」



フゥッ――とため息をはかれるが水和は全く気にしていない。このやり取りは何回も繰り返していることだからだ。
それに、こんな事を言いつつも骸は反対はしていない。

ただただ心配をしてくれているだけ。

それでも、敢えて水和は聞いた。



「兄さんは私と恭弥が付き合うの反対してる?」

「…………」



聞いた途端、骸は顔をしかめる。

彼女は自分が心の底から付き合いを反対していない事を知っているはずなのに、敢えて聞いた事の意地の悪さに呆れた。

ため息を吐きたかったがグッと抑える。



「…反対はしていません。ですが、複雑すぎますよ」
「うん、知ってる」

「全く貴女は…。そんな風に育てた覚えはないのですがね」
「やだなぁ、兄さんを見て育ったからこうなったんじゃない」



今度こそ骸は大きなため息をついた。

骸の心中等何のその、水和はニコニコと笑うばかり。


骸はどんな笑みでさえ、彼女の笑顔に弱い。だからこそ笑ってくれるのなら何でも許してしまいそうになる。

そんな自分に呆れ、又もため息をつこうとしたら、不意に彼女は骸と空いていた距離を歩みよって詰め、微笑みながらも真剣な眼差しで彼を見上げる。



「いつも心配してくれてありがとう。でもね、恭弥と居るの楽しいから大丈夫」

「…寂しい思いはしていませんか?」
「うん、してない。恭弥が傍に居てくれるだけで寂しくなんかないよ」



骸とずっと一緒だった水和は、骸と離れ寂しかった。
けれど、そんな寂しさを埋めてくれたのが恭弥という存在。


出会いは最悪だったかもしれない。
会う度会う度、闘い始めたかもしれない。

けれども、それが寂しさを埋めてくれた。


骸自身も、分かっている。

自分が居なくなった事で水和に寂しい思いをさせたこと。
それを雲雀 恭弥が知らず知らずの内にまぎらわせてくれていた事も。



「僕は水和に笑っていてほしいと思っています」
「うん」
「水和が笑っていられるなら文句等ありませんし、安心だってできます」
「うん」


「……寂しい思いをさせてすみませんでした」

「……ううん。兄さんは私達を守ってくれたから。ありがとう」



優しく頭を撫でてくれる。
その感覚が久し振りで少しだけ泣きたくなった水和は、慌てて下を向くと骸の指が目尻を拭う。


「そろそろ行かないと遅刻しますよ」



雲雀 恭弥が下で待っている――とは言わなかった。言いたくなかった。
可愛い妹が離れていく寂しさが少しだけ悔しかったのだ。

以前までは自分の後ろを追いかけて、着いてきた彼女は遅かれ早かれ完全に居なくなるだろう。


自分の手を離れていくのに嬉しいやら悲しいやらで複雑では未だにあるが、水和が笑っていられるならそれでいい。



「娘を嫁にだす親の気持ちが分かってしまうようですよ」



本気半分冗談半分で言ったけれど、水和から予想外の返事が返される。



「あながち間違ってないと思うよ!」



「……………………は?」




呆けていると水和が上機嫌で部屋から出ていく。



「ちょっ、ちょっと待ちなさい水和!! どういう意味ですか!? 結婚なんて早すぎますよ!? 流石に結婚はまだ許しませんからね!?」



骸の叫びを背中で受け止めつつ、クスクスと楽しそうに笑って恭弥が居るであろう、外へと駆けていった。






残された骸は本日何度目かのため息をはいて、窓枠に寄りかかると―――


「水和を頼みますよ。雲雀 恭弥」



下に居る雲雀 恭弥に向けて言った一言。

聞こえたのか何なのか、雲雀は骸の方を振り返ると直ぐに見上げてきて、目と目が合う。

ただ互いの目が合うだけ。



骸と戦う事に固執している雲雀らしくないくらい、何もしない。
そのまま数分が経ち、水和が雲雀の元へ着いた姿が見えると目は離される。


雲雀 恭弥はとても愛しい者を見るような瞳で出迎え、水和は幸せそうな笑みで傍に寄る。
そんな二人の様子に骸は微笑むと、霧に包まれ姿が消える。


消えた後、その場に残るは自分の代わりにと現れた少女だけだった。







********






「お待たせ!」


満面の笑みで駆け寄ってくる愛しい人。

上を見ていた顔を彼女に向けると、不思議そうな表情をした水和がいた。



「何見てたの?」



水和は雲雀が見ていた場所へ視線をやったが其処には何もない。
一体何を見ていたのか、問うような目で見るが彼はただ微笑むだけ。


「なんでもない。行こう」
「う、うん」



自然と絡まる手と手。
戸惑っていた水和も絡まる手に意識が行き、照れくさそうに頬を染める。


「珍しいね。恭弥から手繋いでくれるの」
「任されたからね」
「任された?」



何の事かさっぱり分からない水和だったが、雲雀の微笑みを見れば、そんな事は気にならなくなる。


互いに微笑み、恭弥に手を引かれながら並盛中へと向かった。







〜end〜






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