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□雲行き2
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「水和! 白鐘 直人君、転校してきたの知ってる!?」

「……え?」
「さっき、校門の前であったの。今日から通うんだって」


千枝と雪子の話を聞いて真っ先(って言ってもお昼になったけど)に一年の教室まで来た。――まではいいんだけど、会うの気まずい…かも……。

この前は心に余裕がなくて気にも止めなかったけれど、今は違う。


関わりがあまり無いっていうのに、恋愛事情を語り出すわ、弱音吐くわ、大泣きするわ………。
今思うと、物凄く恥ずかしいんですけどお!!!


ああっ、しかも百面相してたからか何なのか周りから変な目で見られてるしっ!


「氷月先輩?」


あたふたしてたら、あまり聞き慣れない声に自分を呼ばれてハッとする。

だけど、予想はついてる。


「…白鐘君」


怪訝な顔してるから、きっと私の奇行を目撃してたんだね……慌てると周りの目を気にしなくなるのは本当に直さないと…。


「…私の名前、知ってたんだ」
「調べましたからね。それより、一年の教室までどうかしたんですか?」


おっと、そうだそうだ。私はちゃんと目的があって此処まで来たんだ。


「あの、少し話せるかな?」

「……はい。構いませんよ」


微妙に間があったのが気になったけど、そのまま屋上まで移動する。

お昼の屋上は思ったよりも人は居なくて、ほぼ貸切状態。

まぁ、居たとしてもいつも疎らで無人に近い…。


「びっくりしちゃった。白鐘君が転校してくるなんてね」
「彼らから聞いたんですか?」



―――彼ら。

朝に校門で会ったって言ってたから、鳴上君達の事だろう。案の定「うん」と、返せば別段驚く様子は見られなかったから白鐘君も分かってたようだ。



「あのね、白鐘君にお礼言いたかったの」
「お礼、ですか?」


意味が分からない。
正にそんな感じで困惑してる白鐘君に自然と笑みが溢れた。


「前に言ってくれたよね。正直でいい、隠さなくていい、その想いから逃げては駄目――って」


あの言葉のお陰で、やっと逃げる事を止めた。すぐ後ろ向きになる事を止めた。

一条君を想い続ける事が出来た。

この想いが叶わないとしても、一条君を想っていられる事は私にとって何よりも大切。

だからこそ―――



「ありがとう。もう逃げないよ」


今の気持ちを自分なりに精一杯込めて伝えた。
それが白鐘君に伝わるか何て分からない。だけど、これ以上の言葉はないと思ってる。


「以前とは、まるで別人ですね」

「…………」


優しく柔らかく微笑んだ白鐘君に目を奪われた……。
心地よい、そよそよとした風が白鐘君の髪を揺らして遊ぶ。

それはキレイで可愛くて……まるで…。

(あ、あれ?)

気のせい、かな?
さっきの笑いかたとか…雰囲気が……


女の子、に…見えた……。




キィッ



扉の開く音。

白鐘君も気づいたようで、お互いそちらに目を遣る。


「一条君!!」

「…あー、ご、ごめん!お邪魔しました!!」



え? ちょっ、ええっ!?

まさか…誤解、されちゃったの?



「あの…」

「…うぇ!? な、何?」
「今の方が、貴女の大切な人――ですか?」


凄いっ…。あんな一瞬で分かるものなのかな?

コクリと頷けば、先程同様。優しくて柔らかい微笑みをしてくれる。
元々中性的な顔立ちも相まってなのか、その微笑みはとても可愛くて男の子には…見えない。

(うーん。やっぱり…女の子に見える)


「頑張って下さいね。応援してますよ、貴女は笑っている方が素敵ですから」


予想外の人物からの応援に驚きつつも、内心は嬉しくて嬉しくて舞い上がってしまう私。

照れ臭くて笑って誤魔化しても、白鐘君も笑って返してくるから余計に恥ずかしかった。




でも、何よりも優先すべきは――


……………とりあえず誤解解かなきゃ…。









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