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□太陽の彼と彼女=支える人
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「鳴上―――っと…」
「一条?」
声を掛けてきた本人である一条は水和の姿を確認すると、あからさまに動揺して気まずそうにしている。
………水和が居たと思わなかったって言ってるようなものだ。
案の定、水和も分かったようで泣きそうになってる。
一体二人の間に何があったのだろうか?ついこの間まで仲良くしていたというのに。
「悪い。邪魔したな」
「は? おい、一条っ」
呼びかけても、振り向きもしない。水和を避けているなんて誰が見ても分かる。
あの陽介でさえ―――。
「なぁ、氷月と一条なんかあったのか?一条の奴、氷月避けてるよな」
確信した言い方だった。
二人の関係の変わり様に他人が分かるのだから、当の本人の水和は嫌な程、分かってるはずだ。
「最近仲良かったのにな〜……。一条に聞いても何でもないしか言わねーしさ」
「……そうだな」
俺も一条に聞いたが、答えは陽介と一緒。
本当にどうしたっていうんだ?
水和から、この前の休日に一条と出掛けたという報告は聞いてる。
だけど、そのあと直ぐだ。一条が水和を避けだしたのは。
いつも笑顔で明るい彼女から徐々に元気がなくなって笑う事さえ少なくなった。笑うには笑うが、いつもの笑顔じゃない。空元気ってやつだな……。
その様子に勿論、千枝も雪子も気が付く。完二も心配して、よく俺や陽介に水和の様子を聞いてくるくらいだ。
原因が分からないまま―――と思えた。
もしかしたら……という考えが浮かぶ。この前、水和と俺が一緒に居た時の一条の言葉。
―――悪い。邪魔したな
一条は勘違いしてるんじゃないだろうか?
水和と俺が付き合っているか、又は水和か俺、どちらかが好意を寄せてるんじゃないか。
大いに有り得る話しだ。
「一条、少しいいか?」
「ん〜〜、どうした?」
部活中の休憩時間。
グビクビと水を飲んでいる一条に話し掛けるが気の抜けた返事に違和感を感じた。
そういえば、水和を避けてから一条もどこと無く元気が失くなった気がしなくもない。
(全く、なら避けなければいいのに)
思うが口には出さない。否定されるのは聞かなくたって分かる事だ。
「水和の事なんだけど」
「――…っ」
ペットボトルを持っている一条の手が震えた。動揺している。
「……氷月さんがどうかしたのか?」
『俺と水和は付き合ってない』
言おうとして止めた。いきなりそんな事言われても困るだろうし、脈絡がなさすぎる。
「……何だよ?」
いつまで経っても何も言わない俺に痺れを切らしたのか話しの続きを促す。
……いや、違う。痺れを切らしたんじゃない。
気になってるんだ。水和に何かあったんじゃないかって。
この様子からすると一条は少なからず水和に好意があるんじゃないか?
だとすれば、原因が見えてくる。やっぱり勘違いしているんだ。俺と水和の関係を。
「最近、水和の元気がないんだ。――一条、何か知らないか?」
「…………氷月さんに関しては、鳴上の方が分かんだろ…」
苦い表情になった一条は、それ以上聞きたくない、言いたくないとでも言うように俺から遠ざかる。
肝心な事が言えないままだったが、これで分かった。
一条がどうして水和を避けるのか。
それと、自分で気付いてるのか気付いてないのか……(多分)気付いてないのだろうが確実に水和に対して好意を持ち始めてる。
(……しかし)
「厄介な事になったな」
このまま誤解されたままじゃ、良い方向には行かないだろう。
早く誤解を解きに行かなきゃならない。
(陽介にも協力を頼むとするか)
*******
陽介に水和が一条に好意を持っている事を話さず、協力を頼もうとした俺は予想外の事実に驚きを隠せなかった。
「氷月って一条が好きなんだろ?」
「…………知ってたのか?」
俺と水和の仲を一条に誤解された。
それだけしか言っていないというのに、さっきの陽介の言葉。
……陽介は最初から知っていたんだろう。
「まーなっ。氷月は隠してたみたいだから言わなかったけどさ」
「そうだったのか…。だから一条に水和の事話してたのか?」
陽介は答える変わりにニッと笑う。
やっぱり知っていたのか。
陽介は始めから水和の見えないところで助けていたんだ。
水和と一条の仲を一番気にしていたのは陽介だったのかもしれない。
「で?俺は何をすればいいんだ? 相棒」
「……ははっ。そうだな、俺と水和は付き合ってない。
まずは、それだけでも伝えれば違うと思うんだ」
「まっ、そりゃそうだな。おしっ、任せとけって」
それから陽介は一条と話す事が多くなって、何とか俺と水和の事を話してくれたのだが……。
「相棒。一条は、お前らが付き合ってないの知ってたぜ」
「なんだって?」
またも予想外な出来事。なら、俺か水和のどちらかが好意を寄せてると思ってるって事か……。
それなら、今度はその誤解を解く事か…。
全く、世話のやける奴らだ。
「一条はまだ廊下にいるよな?」
「いんや、氷月の話題出したら帰っちまってさ…」
陽介はやれやれとでも言うように息を一つつく。その気持ちが分かって、つい俺までため息を吐いてしまう。
「しょうがない。また明日にするか」
「鳴上」
明日にする必要がなくなった。
帰ったはずの一条が俺達のクラスの前にいたからだ。
一条の雰囲気からして真剣だと伝わる。……俺達が話したい事は一緒だと、それで分かった。
陽介はチラリと俺の様子を伺う。「先に帰っててくれ」と伝えれば苦い表情になったけど、頷いて教室から出ていった。
「どうした?」
声を掛けても一条は暫く何も言わず黙ったまま。だったが、真剣な顔から笑顔に変わった。(嫌な予感がする)
「俺さ、氷月さんの事いい友達だと思ってる」
何が言いたいのか分からない。
いや、大体予想はつくが、その予想が外れる事を願う。
「俺と氷月さんは友達だから心配すんなよ。それに俺より鳴上との方が仲良いだろ?」
あぁ、最悪だ。
本当に勘違いされていたんだ。しかも、遠回しに「頑張れ」と言ってる。
「勘違いだ。俺だって水和の事はいい友人だと思ってる。
だけど、特別な感情はない」
「……………」
何処か冷たく、諦めたような瞳をしている一条を見て何故か冷や汗をかく。
「……そうか」
それだけ言うと背を向けて教室から遠ざかっていく。
……あれで誤解が解けたのか正直分からない。だけど、俺が出来るのはここまで。
後は水和。全てお前次第だ。