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□太陽の彼=陰り
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最近の俺は(自分で言うのもあれだけど…)落ち込んでばかりで嫌気がさす。鳴上や長瀬に家の事話して少し気が楽にはなったけど、やっぱり家に帰って、妹と家族を見るといつも思う。




俺はまだ、この家に居ていいのか。必要とされてるのか。……――息子として思ってくれてるのか……。







休日はなるべく家で過ごさないよう出来る限り予定を入れて外で過ごすようになった。
でも残念な事に今日は誰も一緒じゃない。



鳴上と花村はバイト。長瀬は部活。他の奴らも部活やら予定があるやらで捕まらなかった。…バスケ部も休日練習あればいいのに…。



何も考えないでフラフラ歩いて着いたのは駅。ここまで来たんだから遠出しよう。沖奈は行くのも帰るのにも、かなり時間がかかるし栄えてるから一日くらいは時間を潰せて調度いい。



そうして電車が来るまでぼーっとしてたら感じた視線。つい気になって顔を横に向けて視界に入ったのは――氷月さん。
休日だから私服姿で制服の時とがらりと雰囲気が変わってる。(あ、可愛い)


鉢合わせる事多いなと心の中で呟く。学校ならともかく、外で、しかも駅で鉢合わせなんだから凄い偶然だ。
それに、氷月さんに会えて喜んでる自分がいる。



氷月さんに話し掛ければ沖奈に行くところらしく、一緒に向かう事になった。(嫌がられなくてよかった)電車の中でも沖奈に着いてからも明るい顔で笑う姿に、知らぬ内に励まされたのか何なのか、落ち込んでた俺はいつの間にかいなくなってた。さすが太陽みたいな子だ。こっちまで明るくなる。








「天気悪くなってたのか…」




一通り買い物を終えて、休憩がてらカフェにでも行こうと決めて、向かう途中。雨が降り始めてた。
ポツポツ降ってた雨が直ぐに大降りに変わって叩きつける程強くなる。


咄嗟に氷月さんの手を引いて雨宿り出来る場所に向かって走り出す。氷月さんは女の子だし濡らす訳にいかないから、俺は何とか濡れないようにと無我夢中だった。




「とりあえず、ここで少し雨宿りしようか?」




氷月さんが頷くのを確認して自分の姿を確認する。あんな短時間だっていうのに結構濡れた。

手や腕についた雨を払ってると氷月さんがハンカチを取り出して俺に「使って」と差し出す。女の子のハンカチを濡らすのは申し訳なくて断ったものの、前に貸したタオルのお礼だと言われて受けとった。


受けとったハンカチを見た瞬間、何故か鳴上と氷月さんが仲良く一緒に居る光景が浮かぶ。
二人の仲の良さは知ってる。自分の目で見てるのだから当たり前だ。


前に二人が付き合っていないなら協力しようと思ってた。……今だって…思ってる。けど、既に二人は付き合ってるのか?それが今、無性に気になって仕方ない。




「……鳴上とは出掛けたりすんの?」

「鳴上君?」




もし此処に居たのが鳴上だったなら氷月さんは、どんな風にハンカチを渡す?……それとも渡すなんて事はしないで氷月さんが拭いてあげるんだろうか?




(…俺、何考えてんだよ…)


「こうゆう風には出掛けたことないけど…」

「……そっか(なんで安心して…)」




氷月さんは友達だ。俺がそう望んでる。友達になれたらいいって思ってた。……いや、今もそうだ。

きっと、友達になれたのに鳴上と付き合ってても、なくても、距離を開けないといけない事が残念なだけだ。好きな人や彼女が自分以外の男に、頻繁に会ったり話してるのを見るのは誰だっていい気分はしない。
だから残念なんだ。せっかく友達になれたのに残念。そうだ、絶対にそうだ。




「一条君も私も寂しい青春だねっ」




氷月さんが言った言葉に驚いた。俺も氷月さんも?寂しい青春?って事は……。


鳴上と付き合ってない?


ホッとしたら急に可笑しくなって我慢出来ずに笑った。付き合ってないと分かったなら、やっぱり二人の仲を俺が協力しないと。




「やっぱり一条君の笑顔は大好き」



笑いが止まった。

氷月さんが言った言葉が頭の中で何度もリピートする。
当の本人は自分が口に出したと気づいていなかったみたいで顔を真っ赤にして慌ててる。


それから氷月さんから聞く言葉は前から俺の事を知ってた事と俺の笑顔が……


――太陽――みたいと。




――太陽?俺が?

太陽みたいな笑顔なら絶対に氷月さんだ。一目見た時に思った印象なのだから。
俺は氷月さんが太陽だと思って、氷月さんは俺を太陽だと思ってる。……なんていうか、まぁ、その…嬉しい。


思わずにやけてしまいそうになる口元を手で隠す。




「こうして一条君と友達になれて喋ってる。それが何だか不思議で嬉しくて」




………友達…。




「友達になれてよかった。

友達になりたいって言ってくれてありがとう!」





俺が言ったんだ。「友達になりたい」って。
こうして氷月さんも友達だと思ってくれてる。嬉しくて良いことのはず、なのに……。





なんで……こんな気持ちになるんだ……?









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