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□相合い傘の下
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灰色の空。ザーザー降り続く雨。弱まるどころか強くなる一方。

周りを見ても生徒は自分一人。クラスメイトは誰一人残ってない。




「止まないなぁ」




ため息をつくしかない。

かれこれ止むのを待って一時間は過ぎた。




「…入れてもらえばよかった」




京子が入れてくれると言ってくれたのに居残りがあったため断ったが、こんなことなら甘えればよかった……とも思うが今更考えても仕方ない。


雨の音を聞きながら目を閉じる。


雨音が次第に心地好くなって子守唄にでもなったみたいに、うとうとしている。


このまま寝てしまおう。

意識を沈めていこうとした。




「おい」


「…………んぁ?」




聞き間違いでなければ確かに自分に向けて掛けられた声。




「獄寺? なにしてんの?」

「そりゃこっちのセリフだ」




教室の扉に居たのは十代目こと沢田 綱吉命!!な獄寺 隼人。




「綱吉君と帰ったんじゃないの?」


「……、どうだっていいだろ」




プイッと顔を逸らす獄寺をジーッと見る。心なしか気まずそうに見えなくもない




「あっそ。じゃ、帰れば」

「何やさぐれてんだ、お前?」




やさぐれたくもなる。



自分はまだ教室に足止め。帰りたくてしょうがない。




「お前、帰らねーのか?」


「……帰れるなら帰ってる」

「はぁ?」




意味が分からない。


正に獄寺の表情はそう言ってる。




「傘……持ってねーのか?」




声に出さず頷けば、獄寺が近づいてくる気配がする。


水和は特に気にせず、今だ降り続ける雨をボケッとしながら見ていると頭にコツンと何かが当たった。




「――っ、なに?」

「しょうがねーから入れてやるよ」




頭に当たったのは獄寺が手に持っている折り畳み傘。


顔を上げて見れば大分照れ臭そうにしてる、初めて見る獄寺だった。


いつも眉間にシワがよって、仏頂面(綱吉以外)の獄寺しか水和は知らない。

だからこそ戸惑い、直ぐに言葉が出ない。




「さっさと行くぞ」


「ぁ、……えっ。ちょっと待って!」




慌てて追いかけたけれど、走る必要はなかった。獄寺の歩く速度はゆっくりで水和の歩調に合わせてくれている。



(なんで今日は優しいんだろ…)



なんだか落ち着かない。水和の気持ちはそれでいっぱいで居心地悪そうに若干距離を離しながら歩く。


獄寺は皆が知っての通り綱吉以外には常につっけんどん。

それは水和も例外じゃない。特に水和はカチンとしやすいため、獄寺の発言に冷たく返すことも少なくない。


けど、仲が悪いわけでもない。そのやり取りが二人のコミュニケーションと言ってもいい。



だからこそ、こうして慣れない優しさを向けられると戸惑ってしまう。


傘を開いて水和が入るのを促せば、怖ず怖ずしながら獄寺の隣に並ぶ。




「……獄寺が折り畳み傘って似合わないね」

「お前なぁ……」




素直になれず憎まれ口をいつもの癖で言ってしまう。

こんな時くらいに素直になってお礼を言えたらいいのに……思うだけで出来ない。



二人は喧嘩せずに話したことがないと断言出来るほど喧嘩が多い。


原因は至って簡単。


必ずどちらかが憎まれ口をきくから。



喧嘩をしたいわけじゃない。その思いは一緒のはずなに上手くいかない。


獄寺が横目で水和を見ると、肩が濡れているのが目に入る。



そこでやっと気付いた。


二人の間には距離が出来ていたことに。



なんとなく寂しさを感じたのか獄寺の表情が変わるが、前だけをじっと見ている水和は気づかない。

獄寺の空いている手が自分の方に伸びてることにも。



「わっ!!」



グイッと力強く腕を引かれ、開いていた距離がなくなった。



「ご、獄寺?」

「…肩、濡れてんだろ」



水和はお礼を言わなくちゃと口をぱくぱくするが、肝心の言葉が出ない。

いつもの態度が態度だけに素直になるのが難しく、恥ずかしい。



そんな気持ちが邪魔をしてる。



結局、口を閉じてしまうが、そのかわりとでも言うように、そっと獄寺に寄り添うように近づいた。



「――っ!」



驚いたのか獄寺の息の詰まった声、微かに揺れた身体。


離れてしまうか――水和に不安がよぎったが、獄寺が離れる様子はなく安堵する。



二人の間には無言と傘にぶつかる雨音。




「…水和」




獄寺が初めて水和の名前を呼ぶ。

今まではバカだのアホとしか呼ばれ事がない。


勿論水和は驚いて獄寺を見上げる。と真剣な瞳とぶつかる。



いつの間にか二人の足は止まっていて、雨音なんか聞こえやしない。



肩に置かれた獄寺の手。


徐々に近くなっていく距離。



近づく距離がゼロになるところで、水和が目を綴じれば肩に置かれた手に力が入った。




ようやく雨音が聞こえてきた気がした。


無言で水和の手を握り歩く獄寺に微笑みながら言う。




「…明日も雨だといいね」

「………おぅ」




傘に包まれた想いの中で二人は寄り添う。



明日も雨が降れと願うのが、もどかしい二人の精一杯の気持ち。








〜End〜







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