PERSONA4

□怖い人
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ジュネスのスーパーで買い物してたら見覚えのある背中をキャベツコーナーの前で見つけた。


くたびれたスーツに寝癖のついた髪の毛。若干の猫背。



間違いない。あの人は足立刑事。



声を掛けるべきか迷う。

顔見知りとは言え、親しい間柄ではないし、まともに会話したことさえない。
つまりは、いちいち話し掛ける相手じゃないってこと。


そう思って、背を向けてる彼の横を通り過ぎようとした、正にその時。
――彼、足立刑事がタイミング良いのか悪いのか振り返った。

足立刑事は直ぐに私に気づいて、あっ、ていう顔をする。


「あれ?君、確か…」

「こ、こんばんは。足立刑事」



振り返るとは思わなかったし、かなりの至近距離で鉢合ったせいで、些か緊張気味に挨拶をする。

当の本人の足立刑事は気にしてないようでヘラヘラ笑ってるけど。



「うん。こんばんは。それで〜…名前何だっけ?」

「氷月 水和です」



苦笑いで申し訳なさそうに私に尋ねる。

相変わらずの足立刑事に緊張が少し解けて笑うことが出来た。



「足立刑事もお買い物ですか?」

「足立刑事……いや〜〜そう呼ばれると嬉しいねぇ」

「は、はぁ……」



何だか自由な人だ。


頼りないし、大事な事をペラペラ喋っちゃう人だし……なんで刑事になれたんだろう。そう思うのは私だけじゃないはず。



「そーだ、ちょうどいいや。
氷月さん。キャベツって何に使えるのかな?」

「キャベツ…、ですか?」



何度も言うけど、ほんっとうに自由な人だなぁ……。



「えっと、料理にですよね?」

「うん。そうそう。僕は野菜炒めしか思い付かなくてさ〜〜」



足立刑事のカゴを見れば大量のキャベツ。キャベツが好きなのかな?

とりあえず、思い付く料理を一通り言ってみよう。



「ロールキャベツにスープ、あっ!キャベツに塩昆布とゴマ油かけて食べると美味しいですよ!」

「へぇ〜〜、塩昆布とゴマ油ねぇ。ありがとう、試してみるよ」



ヘラヘラと頼りない笑顔だけど逆にそれが安心する。
刑事っていうのもあるし、あんまり喋ったことないから緊張してたけど今は大分気楽。


これが足立刑事の良さなのかも。



「それじゃあ、そろそろ私」

「あっ、話しておきたいことあったんだ」




私の声を遮る――、と言うより、被せて喋ってきた足立刑事に少し驚いた。


なんとなく……なんとなく、だけど威圧感を感じたから。

その威圧感のせいなのか……、いつもの足立刑事じゃない。そんな気がした。



「九慈川りせ。見付かったの知ってる?」

「へ? あ、はい。昨日見掛けましたから」



なんでいきなり……。


見掛けたってだけなら大丈夫…だよね?



「そっか。知ってたんだね。
にしてもさ、最近変だよねぇ。行方不明になった子はみ〜〜んな、いなくなったと思ったら、ひょっこり現れるんだからさ」


「そ、そうですね」

「それに、いなくなってた時の事。
覚えてないって言うのも一緒なんだよねぇ」



なんだろう……。


怖い。


この威圧感、なに?







「氷月さん―――心当たりとかない?」




ゾワリとした。

悪寒が駆け巡って血の気が引く感覚。


恐怖で胸がドキドキする。



「し……、知りませんっ……」



足が震える。身体もガタガタと震えだす。

どうして?





















「そうだよね、知る訳ないよね。変な事聞いてごめんごめん」



足立刑事の言葉でさっきまであった威圧感と恐怖は飛散したように消えた。


いつものヘラヘラした笑いに頼りなさげな雰囲気。



―――なのに。………なんでなのか、それは嘘で固めた偽りに思えて仕方がなかった。


(なんなの…――この違和感…)

「僕はそろそろ行くよ。気をつけて帰るんだよ」

「は、はい」



踵を返して足立刑事は去っていく。

私は買い物なんてそっちのけで早く、一刻も早く足立刑事から遠ざかりたかった。



足立刑事は頼りなくて自由な人じゃない。



とてもとても怖い人。



















「氷月 水和。楽しみだなぁ」



走ってジュネスを出ていく少女を一人の男は冷たい笑みで見ていた。







〜End〜





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