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□出会いは関係ない
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並盛中に転入してきた一人の少女。名を水和。
彼女は転入早々、厄介な人物に捕まってしまっていた。―――その相手とは。
「一体なんなんです?いきなり風紀だのなんだの…私は今日転入してきたんです。
制服が他校でも仕方ないじゃないですか」
「口答えするつもり?咬み殺すよ」
「はぁ?」
その相手とは並盛中の生徒であれば誰もが恐れる風紀委員長の雲雀 恭弥。
しかし、転入してきた水和が、そんなこと知る由もなく不満げに言い返すのを聞いた周りの生徒達は顔を青ざめる。
雲雀はそんな周りの生徒達の視線が煩わしいのか、ギロリと睨めば、あっという間に人っ子一人いなくなる。
さすが、雲雀 恭弥と言うべきか。
「……貴方…なんなの?」
睨むだけで生徒が散っていった様を見て訝しむように言う。
けれど、雲雀は聞いていないのか、はたまた聞く気がないのか水和の問いに応えることはない。
「……とにかく。暫くはこの制服で過ごしますから」
「そう。……風紀を乱す奴は……―――咬み殺すっ!」
「っ!!!」
雲雀はいきなりトンファーで殴り掛かる。
相手は普通の女の子。
避けること等出来る訳がなく、殴られ、地面に叩きつけられる。
と、思うだろう。実際は違った。
水和は普通の女の子ではない。
トンファーをヒラリと避けて、隠し持っていたのか、針形の暗器を取り出し、投げつけ攻撃する。
これにはさすがに驚いたのか、雲雀は咄嗟にトンファーで飛んできた暗器を振り落とすとカラカラと廊下の地面に落ちる。
「君、何者だい?」
「ふふっ。さっきとは反対ですね」
水和はまるで品定めでもするような目線で雲雀を見る。
その雰囲気は先程とは全く違うもので微かに雲雀の戦いへの欲望を刺激する。
この雰囲気。
何処かで感じた事がある。
この異質な雰囲気。
不気味にさえ感じる笑み。
何処で、誰だったかを必死に思いだそうと頭の中の記憶を探る。
「貴方が雲雀 恭弥ね?兄さんから聞いた通りの人だわ」
「兄さん?」
「ふふっ。よく覚えているはずですよ?
貴方をボコボコに打ちのめした人物……」
雲雀には一人だけ思い当たる人物がいる。
あの忌ま忌ましい相手。
そう――――。
「「六道 骸」」
二人の声が重なる。
「私は六道 水和。今日から並盛中の生徒です。よろしくお願いしますね」
「……………」
食えない笑みは憎らしい程、六道 骸にそっくりだった。
二人の出会いは最悪。
互いに敵対心を持ち、片方は咬み殺そうと本気で思っていたのだから。
******
あれから時は経ち、出会えば場所が何処だろうと戦い出す二人の姿は今現在、見る事はない。
何故なら―――――。
「水和、いい加減起きなよ」
「…、ん〜…今何時?」
「もう放課後だよ」
場所は応接室。
雲雀はソファに座り、水和は雲雀の膝の上に頭を乗せ、スヤスヤ寝ていた。
「ほら、帰るよ」
「……もうちょっと」
「咬み殺すよ?」
言葉は物騒だが、雲雀の表情は柔らかく、大切そうに、愛おしそうに水和を見つめながら髪を梳く。
水和も嫌がるそぶりは見せないで、逆に気持ちが良いのか嬉しそうに微笑む。
その笑顔は骸とは全く似ていない。
「さっきね、夢見てたの」
「どんな?」
「私と恭弥が初めて会った日」
あれは最悪の出会い。
けれど二人にしてみれば、そんなことは過去の事に過ぎず、今となればいい思い出。
「あの時は六道 骸の妹なんて言うから信じたけどね」
「あながち嘘じゃないでしょ? 血は繋がってなくても妹だって言ってくれるし、六道と名乗ってもいいって言ってくれたもの」
六道 骸と水和は兄妹ではない。
雲雀がその事実を知ったのはお互いが惹かれ初めた頃。
兄妹ではないと知った時、心底安心したのは雲雀しか知らない。
「六道じゃなくて雲雀って名乗れば?」
「…………それってプロポーズ? 気が早くない?」
「さぁね。でも、僕の傍から離すつもりはこの先ないから」
不器用な雲雀の精一杯の愛情表現。
それが分かっているから余計に嬉しくなる。
「雲雀 水和って名乗ろうかなぁ…」
「いいんじゃない」
今だ膝の上に居る水和にキスを落とす。
まるで、誓いのキスの様に――――。
〜End〜