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□06 表Side
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次の日。私はいつものように稽古を終えて帰ろうとしたけど昨日の男の子を思い出した。

あのまま帰っちゃったから怒ってるかな?



「あの、友達と会ってから帰ってもいいですか?」

「ん?あぁ、構わないぞ。おじさんも着いて行こうか?」


昨日のこともあるから言ってくれてるんだろう。

でも。


「大丈夫です。今日は直ぐに帰りますから」

「ん〜〜、でもなぁ…」

「人見知りな子だから二人じゃないと会ってくれないんです」


家光さんは渋々ながら了解してくれて、先に帰って行った。
見送り終われば、出来るだけ早く着くように男の子の居た家へ急ぐ。




名前聞いてなかったなぁ…なんて考えながら家の近くまで来たとたん、いきなり腕を引っ張られて――多分、男の子の家の敷地内に転がり込む。
慌てて顔を上げれば、やっぱりそこには昨日会った子が物凄く不機嫌な表情で、腕を掴みながら私を見てる。


こんな小さな子なのに迫力満点で結構怖い……。



「きのう……」

「あぁっ!昨日はごめんね!
今日は少し時間あるから……」


そこまで言って私は私自身に疑問が浮かぶ。
この子に会ったら絶対昨日みたいに戦おうとする…現に昨日言われたわけだし……。


なのになんで私会いに来てるんだろうか…?
今の私の実力じゃ、この子には勝てないなんて分かってるのに……。

でも、勝手に帰ったから怒ってるかもしれないし、それでいきなり襲い掛かれても困るし……だから会いにきたわけで…。


…何だろう…何で自分に言い訳してるかなぁ、私。



「ねぇ、きいてる?」

「えっ?ご、ごめん、なに?」



私が自分の世界に入ってる間に男の子は喋ってたみたいで更に不機嫌に磨きがかかる。

自分で自分の首絞めてどうすんの私……。



男の子は相変わらず不機嫌な表情で私を見てたと思ったら――またもや、いきなりトンファーで殴り掛かってきた。
けど、それは昨日みたいな鋭さなんてなくて簡単に避けることが出来たけど……一体なに?



「やっぱり……きみはさけるだけなんだね」


「………ぁ」



確かにそうだ。私が稽古してるのは護身術。
勝つ為のものじゃなくて自分の身を守る為。
倒すんじゃなく、気絶させる。間接を外す。骨を折る等相手の動きを封じるやり方。


パパと家光さん自己流が入ってるから多少物騒だけど……。
倒すのが目的じゃない。


それなら好戦的で相手を本気で倒そうとする戦い方で私が勝つのは無理。

護身術は相手を受け流して、自分の身を守る戦い方だから。


「ぼくとたたかってみない?いまよりつよくなれるとおもうよ」


「……………」



どう答えればいいのか分からない。
護身術を習ってるのはツナの為。ツナを守りたいから。


だけどマフィアの道を行くなら確かに護身術だけじゃ戦えないのも本当で、ツナを守るなら護身術だけじゃ心許ないのも確か。


「きみがつよくなればぼくもたのしいしね」

「理由そこっ!?」


この子は強い。確実に私より強い。

それに戦い方も相手を絶対に倒そうとする好戦的なもの。
私にとって損は全くない。

となれば答えは一つ。


「お願い、しようかな」



そう言えば男の子はニコリと微かに笑う。それを見て、また私がドキッとしちゃうのは、きっと目の前の子の微笑みに慣れてないから、だと……思う。



「ぼくはひばり きょうや」

「…私は葉月 愛美。よろしくね、恭弥君」



恭弥君の稽古は正直不安だらけだし、怖いけど名前を聞けたのは素直に嬉しい。いつまでも男の子――って呼ぶのもね…。



「ねぇ、まなみはぶきつかわないの?」

「護身術だったから殆ど体術かな。…武器は使ったことないよ」


「……トンファー。これはつかったよね」


確かにトンファーは成り行きで使うには使ったけど……。


「で、でも振り回しただけだし」

「それにしてはいいうごきだったよ。
これあげるからつかえば?」



恭弥君は持ってたトンファーを私に渡す。
返そうとは思わなかった。

だって、あんな風に微笑みながら渡されたら返す事なんて出来ない。
……自分で分かる。今顔が熱い。きっと、私の顔は赤いんだろうな…。



「どうしたの?」

「うぅん、何でもない。
わ、私もう帰るねっ!トンファーありがとう!!」

「えっ?」


何だか恥ずかしくて気まずくて帰ろうと走り出した瞬間―――。



「…もう、かえるの?」


なんて言葉はしっかりと私の耳には届いたわけで…。
走り出そうとした足は止まり、つい後ろを…恭弥君の方へ振り向く。


恭弥君は無表情だったけど、少しだけ…本当に少しだけ寂しそうな表情で瞳もゆらゆらと揺れてる気がした。



「明日。また来るから。だから――また明日ね」


「……――まってるから、はやくおいでよ」



恭弥君が家の中に入るのを見送ってから私も今度こそ足を動かした。


そういえばトンファーどうやって説明しようかな?




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案の定。家に帰ればトンファーを持った私を見て、家光さんが物凄く驚きながら聞き出すのを曖昧に説明する。
「あいつにどう言えばいいんだぁ――!」って叫んでた。

多分あいつってパパのことだよね……。


家光さんには悪いけど今の私は早く明日になればいいなぁって考えてばかりだった。





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「なぁ、愛美ちゃん…。
その友達と危ないことしないよな?」

「大丈夫です。大怪我するようなことしないですから」


怪我はするだろうけど…。なんて心の中で言った。

家光さんは俺も行くと稽古が終わってからずっと言い続けてたけど、なんとか説得して帰ってもらうった。

すみません、家光さん。


家光さんは本当に私を心配してくれているからこそ、危ないことはしたくない……。
けど私にとって恭弥君との稽古は大切な事。



「どこいくつもり?」


考え込みながら歩いてたから恭弥君の家の前を通り過ぎようとしてた。


「……あはは…ご、ごめんね。声掛けてくれてありがとう」

「そんなことより、――はやくやるよ」


言うなりトンファーを構えたから私も慌ててトンファーを構えれば、一瞬で間合いを詰め殴り掛かってくる。


そうすれば以前の流れと一緒で避けるばかりで反撃さえ出来ない。
護身術を習っていても受け流すことさえ出来ないから全く意味がない。

こんなに実力の差があるなんて…!!


そんな一瞬の考えの不意をつかれて一撃が目前に迫って顔に当たった……。と思ったけど痛みはなくて見ればトンファーは顔面ギリギリのところで止まってた。


「やっぱりいきなりはむりみたいだね」



目前にあったトンファーを戻し、恭弥君はもう一度構える。


「たたいかた。おしえてあげるからはやくつよくなってよ」


そう言った恭弥君に私は嬉しくなったと同時にドキリとした。
それはときめきとか、そんな類いじゃなくて、不思議だったけど早く強くならないといけない気がしたから。

これから先のために強くならなくちゃいけない。そんな不可思議な思い。





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「だいぶマシになったね」

「そりゃあ毎日稽古してもらえばね」



あれから毎日毎日、恭弥君の稽古。
かなりスパルタだったお陰なのか以前よりは攻撃を出せるようになったと思う。


それに、パパと家光さんにもちゃんと説明した。


マフィアとして生きていくつもりだから、護身術だけでなく相手を倒す戦い方も学びたいと。

そしたら、意外にも理解してくれて護身術意外の戦い方も徐々に教えてもらえてる。
だから前よりは恭弥君の相手になれてると思う。


「もっと強くなって恭弥君に勝ちたいなぁ」

「むりだね。そうしたらぼくはまなみよりつよくなるから」

「そんな即答しなくても……」

「ぼくはきみにまけることはないよ。
まなみよりよわいなんて……なんかヤダ…」



恭弥君は負けず嫌いだなぁ。
でも恭弥君より強くなれなくても一緒に戦えるくらいには強くなりたい。

強くなればなるほど恭弥君だって嬉しそうだしね。


何となくだけど長い付き合いになりそうな気がする。
こうやって付き合ってくれる恭弥君とツナの為にも頑張ろうっ!






その後だった。水和から電話があって、両親が亡くなった。って聞いたのは………。








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