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□言葉も素直も
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空は憎らしいほどの晴天。
普通ならば気分が良くなるだろう、この晴天とは逆に、どんよりと曇りがかった空気を醸し出すのは一人の男性 ディーノ。
ため息を吐いては、うなだれ。またため息を吐いてはの繰り返し。
見てみぬフリをしていたロマーリオも、流石に重苦しい空気に耐え兼ねたのか口を開いた。
「一体どうしたんだ、ボス。
水和と何かあったのか?」
水和と聞いたディーノの身体がピクリと反応する。
最近は仕事は順調で憂いる事などなかったので原因と言えば恋人の水和くらいかと思い口に出したのだが、どうやらロマーリオの予感は的中したようだ。
「喧嘩でもしたのか?」
「………いや、してない」
だろうな。とロマーリオは思う。
ディーノと水和が交際をして何年か経つが喧嘩は一度もしてない。
周りから見れば羨ましく、仲が良く、うまくいっている恋人同士なのだろう。
否、実際うまくいっている。
ただ、喧嘩が一度もない。それは良いことでもあり、悪くもある。
この二人は本音をぶつけ合っているのか……ロマーリオは心配になる。
「水和はさ…いつも何も言わないんだ……」
顔を伏せたままディーノはつづける。
「どんな理不尽な理由でデートが中止になっても長期間会えなくなっても……俺が他の女と一緒にいても、だ…」
他の女。
それは勿論仕事上の事。それ以外でディーノが水和以外の女性といることはありえない。
何せ、ディーノは心底水和に惚れている。
それはキャバッローネ全員が知っている。
ここまで聞いてロマーリオはディーノが何を言いたいのか理解する。
「俺ばっかり寂しくなって、嫉妬して……水和は俺のことどう思ってんのか分からないんだ…」
ディーノは水和からの愛情が伝わってないのだろう。
だが、水和がディーノをとても愛してるのを、これまたキャバッローネ全員が知っている。
お互い不器用ですれ違う。
「素直にそう言えばいいじゃねぇか」
「……言う?」
「水和にだよ。
言わなきゃ伝わらないってのは、ボスが一番分かってるだろうよ」
ロマーリオの言葉にディーノは目を見開く。
心なしか先程よりディーノが纏う空気が明るくなる。
「だよな。
言ってほしいって思ってる俺が言わないなんて可笑しいな…水和のとこ行ってくる!!」
椅子から立ち上がり、ニッと笑い部屋を飛び出した。
「たくっ。世話のやける御両人だ」
実はロマーリオは数日前に水和からディーノと同じような相談をされていた。
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「私、ディーノの負担にならないようにってカッコつけて不満も嫉妬も言わないようにしてるんだけど……」
水和はディーノの為に我慢しようとしていた。
それが、すれ違いのきっかけとも知らずに。
「前は、寂しそうな顔してごめんって言ってくれてたんだけど……最近は難しい顔しかしなくて…。
もう、私のこと―――好きじゃないのかな……」
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お互い言葉にしなさすぎた。
素直になればいいだけだというのに……。
「まぁ、――心配はいらねぇみたいだな」
窓の外を見れば仲良く手を繋ぎ、寄り添うディーノと水和。
二人の表情は柔らかく、幸せそうに笑っている。
ロマーリオはまるで父親のように微笑むと書類に向き合い、ペンを握る。
「さて、仕事するか」
暫くは二人だけでいさせてやろうと、残りの仕事に手をかけた。
〜End〜