ちょっくら世界を救ってきます。

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「あなた、世界を救うヒーローになりなさい」


今、目の前でおこった光景に、目の前で言われた事に、私は理解ができずただただ呆然とした。




1,理解できないですよ!




学校帰り。
木々に太陽の光を遮られ、少しジメジメとした小道を歩く。誰も通らないような、少なくとも今まで通った高校1年間の毎日の中ですれ違った人は片手で足りるくらいの道。近くには小川が流れていて、夏には本当にごくまれに近所の子どもたちがザリガニを釣りに来る。
そんな小道が私の毎日の登下校ルート。
だから、目の前から人が歩いて来るのを見た時は珍しいな、と思った。
今思えばそんなのん気な事考えてないで早足で通り過ぎれば良かったんだ。
どんどんと近づく影。私が一歩歩くたび距離が近づいていき、のろのろ歩いている私とすれ違う……瞬間、いきなり肩を掴まれた。


「え、」


肩に爪が食い込む。痛さで顔を歪めながら私は一瞬なにがおこったのかよく分からず、肩を掴んでる人を凝視した。
金髪で耳には沢山のピアス。どこにでもいそうな少しはっちゃけた人。
下を俯いているため顔はよく見えなかった。


「す、すいません……あの……」

「カ、ン、ジョウ……」

「え?」

「ヨコ、セ」


そう言った途端ぐりん、と効果音がつきそうなくらいの勢いで私の方を見た。
え、何?
私は理解できない事が多すぎて声を上げる事すら忘れていた。


「チョ、ウダイチョウダイチョウダイチョウダイチョウダイチョウダイチョウダイチョウダイチョウダイ」

「え、あ、」


こんな時でも私は上手く声が出ないのか、と苦笑する。
私の額へ向かって伸びてくる手。逃げろ、と頭では危険信号を出している。分かっている。でも足が動かない。それに肩もガッチリ掴まれたままだ。
あぁ……。


「ギャッ」

「え、」


突如上げられた悲鳴に近い叫び声に肩をすくます。
え、いったいなにがおこったの。


「お帰りなさい」


強く、凛とした声が響く。なぜかその声が嫌に耳に残った。
ザワザワと木々が風に揺らぐ。


「アツイ、イ、タイ、アツイアツイアツイアツイ!ヤ、メテ!」

「!」


苦しんでる。目の前でさっきまで肩を掴んでいた人が苦渋に満ちた顔でその場所に崩れ落ちた。


「だ、大丈夫ですか!?」


手を伸ばし、目の前で呻き声を上げる人に触ろうとした。
その瞬間、ガッと辺りに鈍い音が響き視界から目の前の人が右方向に消えた。いや、飛んでいった。そのまま真っ直ぐに飛んでいき、巨木に体を打ちつけ、崩れ落ちた。


「ダメよ、触ったりなんかしちゃ」


クスクス、と可愛らしく笑う声。私は目を見開きその声の方向へ顔を向けた。きっとその声の主がさっきの人を蹴り上げたのだろう。
なんだろう、冷や汗が止まらない。


「アレモネみたいな穢らわしい存在に、触っちゃいけない」










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