ちょっくら世界を救ってきます。

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あぁ、まただ。
最初に会った時と同じ。
同じ渇いた瞳。


踏みつける足をどかす事なくルイさんは小首を傾げもう一度私に問うた。


「ねぇ、どうして?」

「……え、いや、あの……す、すいません。く、苦しがってます……痛がってます……か、わいそう……です……」

「可哀想?」


その一言を聞くとハッと鼻で笑う。そしてすぐに無表情になり私を真っ直ぐに見て言った。
あぁ、どうしよう。足がすくんで仕方ない。


「可哀想って何?」

「……え、と……」

「それなら、このアレモレに感情を喰われた人たちはどうなるの?」

「…………」

「見捨てるの?」

「す、すいません……」

「……私たちはね、両方を選ぶことなんて出来ない。今ならアレモレだけ消せば全部元通りになるの」

「……ご、ごめ……」

「消しなさい、」


その一言に今まで俯いていた私は目を見開いてルイさんの方を見る。
相変わらずその瞳には何も写っていなくて。辺りに響くのは黒髪の少女の発する呻き声。酷い音がしたし骨の一本くらい折れているのではないだろうか。


「……あ、」

「お札もどきをこのアレモレにかざしなさい」

「……で、できませ「琴里」」


無理だと首を振る私に冷めた声が降りかかった。
無言の圧力。
どうしよう、やらなきゃ。早く、早く。

震える手で私はポケットに入れておいたお札もどきを取り出す。くしゃくしゃになってしまったそれのシワを手で伸ばし、私は一歩足を踏み出した。


天界から追い出された黒髪の少女がこちらを見る。


お願い、見ないで。


「……お帰り、なさい……」


跪き背中にかざして私は言った。
するとパンッと何かが弾けたようにあたりにまばゆい光がはしる。
反射的に目を瞑ると、聞こえて来たのは黒髪の少女の悲痛な叫び声だった。




――――――




「じゃあ、ちょっと感情を返しに行ってくるから」

「…………」


あの後消えた少女の変わりに現れたのは白くて丸い玉。まるで真珠のようにキラキラと光っていた。
ルイさんはそれが喰われた感情だと言い、それをさっきの人たちに返しに行ってしまった。

私は先ほど言われた言葉を思い出す。


「さすが国王に選ばれた人だわ。大丈夫、あなたは正しい、正しい事をしたの」


そう言って笑ったルイさんにはさっきの恐ろしい面影などまったくなくて。


これが正しいことなのか。


さっきの光景を思い出した私はギュッと目を閉じ、ただただ謝り続ける事しかできなかった。







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