その花びらにくちづけを

□オレンジ安定剤
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いつの日だったか。
もうはっきりとは覚えていない。
どうでもいいことだけは覚えているくせに。
大好きな人だからこそ、何も覚えていない。
自分の甘さに少々腹が立った。



目の前で揺れる淡い栗色の長い髪。
シャンプーの香りがした。

この匂いは、嫌いじゃない。



今日は幼馴染のレオと夕飯の買い出しに近くのスーパーに来ている。
と、いってもレオ自体は何も料理できないのだが・・・。
今日の献立を考えるのがレオの役目。
でも私はそれでもいいと言っている。



『レオ!前!』


「っ痛!!」



目の前の商品が積まれた棚にレオが直撃した。
当たった衝撃で棚からいくつかの商品がバラバラと音を立てて落ちた。



『どうして・・・こう・・・お前は仕事を増やすんだ・・・』


「ご、ごめんなさい・・・」




溜息を漏らして言い放つとレオは素直に謝ってくれた。
捨てられた子犬のような顔をして、床に落ちた商品をかき集める。



『これで全部だね』


「うん。その・・・手伝ってくれてありがと・・・」



恥ずかしそうに俯いて礼を言う。
そこが彼女の美点。
そういうところを見る度。
自分に限界が来ていると悟った。



『レオ・・・』



俯いて、彼女の名前をぽそりと呼んだ。

何かがはち切れそうになった。



「なーに・・・んっ」



振り返り際に彼女の唇と触れ合う。
口の中はさっきまで食べていた飴の味が広がった。
オレンジの味がする飴。



『なんかもう・・・余裕ないみたいだわ』



私は心のどこかで焦りを感じていた。
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