一話物語

□幸せになれ。
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ここは中学から大学までエスカレーター式の寮制男子高。

生徒達は異性がいないせいか、恋愛対象が自然と同性になりつつある。

中学から通い始めた俺も、ストレートだった。

だけど今では彼氏がいる。

付き合って半年。


「もういいよ。」


まあ、もう別れるけど。


コクってきたのは向こう。


噂には聞いていた。

こいつは下半身の緩い奴だと。

でも見た目がチャラいわりに何度もアタックしてきて、真っ直ぐ見つめる目に揺らいでしまった。


俺は平凡な顔をしてて、性格なんてお世辞にもいいとは言えない。

友達に聞けばきっとひねくれてる奴、そう言われるだろう性格。

そんな俺に真剣に好きなんだと言ってくれて、素直に嬉しかった。


この気持ちがそもそもの間違いだったのだろうか。


「俺、こ、断われなくて…。玲兎、ごめっ…、」


派手な音をたてて藍は倒れこむ。

ゲホッと苦しそうに腹を押さえ咳き込む様子を見て、俺はゆっくり足を地面に下ろした。


「ちゃんと言ったよな。一回でも他の奴抱いたりしたら別れるって。」


誘われてこいつは俺以外を抱いたんだ。

例え後ろめたさを感じて、後悔していたとしても。

断われなかったなんて言い訳にもならない。


はぁ、とわざとらしくため息を吐けば、倒れて俯いたままだった藍は、ビクッと肩を震わせ俺を見上げた。

その目にはうっすらと涙の幕が張っている。


そんなに強く蹴ったつもりはなかったけど、やっぱ腹だったし痛かったのかな、とどこか他人事のように思った。


膝を着いてちゃんと座らせてあげると、腕をぎゅっと掴まれた。


「玲兎、ごめん。嫌いに、ならないで…。」

「…俺はね、藍。例えどんなに大好きな人でも、自分にとって嫌なことをされたら、その人のことを一瞬で嫌いになるような人間なんだよ。」


あやすように言うと藍の頬を涙が伝って落ちた。

何度も名前を呼ばれ、ごめんと繰り返される。


「……藍、俺を好きだったなんて、一時の気の迷いだったんだ。」

「違っ…!」

「お前を愛してくれる人はたくさんいるよ。藍は優柔不断だけど、優しくて一途なんだから。」


愛されていた分、俺だって愛していた。

もう藍はこんなことしないかもしれない。

それでも、嫌なんだ。


藍の手を振り払い立ち上がる。


「次は浮気なんかすんな。誘われても断われ。泣かれたって靡くな。一人を大切にしろ。それから、」




幸せになれ。




(今までならきっと問答無用でもっとひどい目にあわせてたのに、どうしたんだろう、俺。)

(それに藍のことは、最後まではっきりと嫌いって思えなかった。)

(不思議だよね。)




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