一話物語
□幸せになれ。
1ページ/2ページ
ここは中学から大学までエスカレーター式の寮制男子高。
生徒達は異性がいないせいか、恋愛対象が自然と同性になりつつある。
中学から通い始めた俺も、ストレートだった。
だけど今では彼氏がいる。
付き合って半年。
「もういいよ。」
まあ、もう別れるけど。
コクってきたのは向こう。
噂には聞いていた。
こいつは下半身の緩い奴だと。
でも見た目がチャラいわりに何度もアタックしてきて、真っ直ぐ見つめる目に揺らいでしまった。
俺は平凡な顔をしてて、性格なんてお世辞にもいいとは言えない。
友達に聞けばきっとひねくれてる奴、そう言われるだろう性格。
そんな俺に真剣に好きなんだと言ってくれて、素直に嬉しかった。
この気持ちがそもそもの間違いだったのだろうか。
「俺、こ、断われなくて…。玲兎、ごめっ…、」
派手な音をたてて藍は倒れこむ。
ゲホッと苦しそうに腹を押さえ咳き込む様子を見て、俺はゆっくり足を地面に下ろした。
「ちゃんと言ったよな。一回でも他の奴抱いたりしたら別れるって。」
誘われてこいつは俺以外を抱いたんだ。
例え後ろめたさを感じて、後悔していたとしても。
断われなかったなんて言い訳にもならない。
はぁ、とわざとらしくため息を吐けば、倒れて俯いたままだった藍は、ビクッと肩を震わせ俺を見上げた。
その目にはうっすらと涙の幕が張っている。
そんなに強く蹴ったつもりはなかったけど、やっぱ腹だったし痛かったのかな、とどこか他人事のように思った。
膝を着いてちゃんと座らせてあげると、腕をぎゅっと掴まれた。
「玲兎、ごめん。嫌いに、ならないで…。」
「…俺はね、藍。例えどんなに大好きな人でも、自分にとって嫌なことをされたら、その人のことを一瞬で嫌いになるような人間なんだよ。」
あやすように言うと藍の頬を涙が伝って落ちた。
何度も名前を呼ばれ、ごめんと繰り返される。
「……藍、俺を好きだったなんて、一時の気の迷いだったんだ。」
「違っ…!」
「お前を愛してくれる人はたくさんいるよ。藍は優柔不断だけど、優しくて一途なんだから。」
愛されていた分、俺だって愛していた。
もう藍はこんなことしないかもしれない。
それでも、嫌なんだ。
藍の手を振り払い立ち上がる。
「次は浮気なんかすんな。誘われても断われ。泣かれたって靡くな。一人を大切にしろ。それから、」
幸せになれ。
(今までならきっと問答無用でもっとひどい目にあわせてたのに、どうしたんだろう、俺。)
(それに藍のことは、最後まではっきりと嫌いって思えなかった。)
(不思議だよね。)
――――――――――――
長くなったので後書き的な次ページ→
130330