ゆめめめーん

□宣戦布告
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おはよー
ちょー眠いわー一限から入れるとかマジない
自分で入れたんでしょ?
そうだけど眠い
ばかねー


ウィンリィとクスクスと笑いあう始業前の講義室。
ギリギリになってエルリック兄弟も駆け込んできた。


「おはよ」
「うっす名無しさん、ウィンリィ」
「もう!あんた達またこんなギリギリに…」
「兄さんが悪いんだよっ夜中まで本なんか読んでるから」
「俺のせいかよ!」


漫才の掛け合いのような会話と共に、始業のチャイムがなる。

その少し後に、講師の先生が入ってきた。


「はーいみんな、おはよー☆」


語尾に星を飛ばしてニコニコと笑顔で入ってきた先生は、出席簿と座っている人数を確認した。


「うん、全員出席ね…あ」


なぜか、ピタリと目があった。その瞬間、ニッコリと笑って一言。


「おはよう名無しさんちゃん」


…なんで名指しなんだろうか。両脇でウィンリィとエドに小突かれる。


「…ちょっと!なんで名無しさんだけいっつも名指しなの?」
「知らないよ…エドなんで?」
「俺が聞きてーよ!なぁアル?」
「兄さんは夜遅くまで本読むの止めてよね!」


若干一名会話が噛み合ってなかったことはこの際無視することにする。先生は私の小声のやりとりを気にせずにさっさと授業に入っていった。

大学の先生らしく、話だけのシンプルな講義。メモ取りはアルに任せて、私達3人は各々のスタイルで眠りについた(ちなみにウィンリィは机に突っ伏すタイプ、エドは頬杖タイプ、私は座ってるけど顔を下にするタイプ)。


ふと、机をトントンとされて起こされた。ビクッとして顔をあげると、私達の席近くで講義資料を読みながら立っている先生。両脇を見ても2人とも起きてない。…ということは私だけ起こしたってことなんだろうか。授業中起こされるのって中学生以来だ。


とりあえず眠気は冷めてしまったので仕方なく先生の話に耳を傾ける。まあまあ面白くない内容だが、先生の問い掛けには必ず女の子が返事をしていてテンポが良い。ふと隣を見ればアルの手元が一生懸命メモを取っているのが見えた。よしきたこれやっぱ寝るしかないな。


そうして私は再び眠りへと落ちていき、次に目が覚めたのは「じゃあ今日はココまでね」という先生の声が聞こえてからだった。


「…ウィンリィ、おはよ」
「名無しさんおはよ」
「お。名無しさん寝てたのかよ」
「兄さんも寝てたでしょ」


なんて不真面目な会話をしつつ荷物をまとめた。次の空き時間何しようか、なんて会話をしているとなぜか先生が此方の席に寄ってきた。…流石に3人並んで寝ていたのがまずかったんだろうか。必死に気づかない振りをして出て行こうとした私達を、「あ。ねぇ、」と無情にも呼び止められた。


「名無しさんちゃん、ちょっとお話があるから僕の部屋きてくんない?」
「はぁ…」


怒っている様子ではなかった。しかも呼び出されたのは私だけ。
4人で顔をあわせつつも、エドが「行った方がいいんじゃねーの?」なんて言うから、渋々先生の部屋に行くことにした。






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「失礼しまーす…」


控えめに声をかけながらドアを開ける。

先生から少し遅れて入った為、パソコンをカチャカチャしていた先生と目があった。


「じゃあそこ座って」


講師のくせに中々立派な部屋をもらってるななんて考えながら、指示されたソファに腰を下ろした。

先生も立ち上がって向かいのソファに座り込む。…と思ったんだけど、先生が座ったのはなぜか私の隣。



…え?



「ねえ名無しさんちゃん。僕の名前知ってる?」



馴れ馴れしく肩に腕を回してきた先生は、いつものようにニコニコした表情で私の顔を覗き込む。人の顔がこんなにも近くにあれば、それはまあ照れてしまうわけで。


「え、エンヴィー、さん?」


どもってしまうのも仕方ないと思う。


でも先生は満足そうに頷いて、回していた腕を私の後頭部に置きサラサラと髪を梳くように頭を撫でる。


「そう。これからはエンヴィーって呼んで?」
「は?」


予想外の言葉に思わず怪訝な顔をして先生を見れば、相変わらず心の読めない笑顔を貼り付けていた。


動揺したら負けだコレ。

そう思った私は照れた表情を必死におさえつけ、先生と距離を取ろうと腰を浮かせて少しだけ離れた(腕の中には変わりないけど)。


「そんなふざけたことどうでもいいです。お話って何ですか?」
「だから、僕のこと名前で呼んでほしいって話」
「へ?」


意味が分かりません。


そんな言葉が思わず表情に出てしまったのか、先生は私の頬をぷにぷにとつつきながら話を続ける。


「なんかさ、名無しさんちゃんのことすごく気になってるんだよね」
「…?」
「講義中もさ、大体の女の子は聞いてくれるのに君とウィンリィはずーっと寝てるし。まぁウィンリィはおチビさん一筋だからいいんだけど」
「分かりました。ちゃんと起きてないと単位あげないよって話ですか?」
「や、全然違う」


なんでわかんないかなーとぼやきながら、先生はグイッと私を引き寄せる。当然、私は先生と密着してしまうわけで。


「僕がキミの事好きカモって話だよ」


耳元でそう囁かれれば、思わずカァっと赤面する。ゆっくりと首を先生に向けると、いつものニコニコとした笑顔。


「…確定はしてないんですね」
「うん。今まで好きとかよくわかんなかったから。でもなんでだろうね、名無しさんちゃんのことは凄く気になるんだ。ウィンリィの方が胸おっきいんだけどさ」
「死ね」
「冗談。だからさ、僕と付き合ってよ」
「お断りします」
「はや!」


回されている腕からするりと抜けて、ソファから腰を上げる。まさか断られるとは思ってなかったのか、引きつった表情の先生を見下ろしながら口を開く。


「先生、」
「エンヴィーね」
「私は異性とお付き合いする時は、ちゃんと好き同士になってからお付き合いしたいんです」
「…うん?」


意図が掴めないのか、先生は首を捻って話を促す。


「好きカモ、なんて中途半端な気持ちでお付き合いはできません」
「なるほど」


意味が繋がったのか、ニヤリと口端を上げて私を見上げる。


「じゃあ僕は君を好きになる。そうしたら、名無しさんちゃんは付き合ってくれるんだろ?」
「私がエンヴィーのこと好きになったらね」
「いいね、楽しくなってきた」


いつもと違いニヤニヤとした笑みを浮かべる。


「決めた。絶対好きにさせるから」
「そうですか、がんばってください」


他人事のように返す私に、ケラケラと笑いながら先生は続ける。


「コレは宣戦布告だから」


そう言って、油断していた私の手首をグイッと引っ張った。今度は向き合う姿勢で先生の腕の中に収まる。


チュッと。


物静かな部屋にリップ音が響く。


「好きだよ名無しさんちゃん。絶対僕のモノになるから」
「が、んばってください…」


再び他人事のように返す私の言葉がどもってしまうのも、顔が赤くなってしまうのもまた、仕方ないことだと思っていただきたい。








「名無しさんちゃん好き。」







あぁこの戦争に勝ち目はないなと悟るのは、そう遠くない未来だった。






















宣戦布告
(「僕、キミの事好きカモ」)



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