ゆめめめーん
□幸せになりました。
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セントラルのメイフラワー通り。の、裏路地。
半年かけて改修された私の家は、元の面影を残しつつ、綺麗に修理されていました。肌寒かったあの日から、春先に入り、ベランダに置いているプランターが可愛く色づく様子が見れる季節になりました。
そろそろ時間かなーと思い、台所に立ってポットを手にとりました。
「名無しさんー」
「あ、エンヴィーさんっ」
いつものように窓からヒョイと入ってくる彼に笑顔で振り返りました。
ちょうど沸いたお湯をカップに注ぎながら彼の名前を呼びました。すると返事の代わりに、ふわりと後ろから抱きしめられました。
「呼んだ?」
「お茶が入りましたよー」
視線だけを後ろに送りながら答えると、エンヴィーさんは私の耳元で口を開きます。
「お茶菓子も食べたいな」
「いいですよ、何がいいですか?」
「名無しさん」
囁くような声で言われると、流石に恥ずかしくなって顔が赤くなるのがわかりました。
「わ、わた…わたしですか」
「あは。ジョーダンだって」
以前はこのような冗談に乗れるくらいのノリができていたのですが、いざ好き同士になると緊張してしまうようになってしまいまして…。
未だに固まっている私の頬をツンツンとつつくと、彼は「大丈夫?」と声をかけました。
「もうっ、エンヴィーさんが変なこと言うからですよ」
「一々可愛いんだから。あ、コレ持ってくよ」
「可愛くないです!」
頬を膨らませながらそう言いましたが、彼は笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でると、注ぎ終わった二つのマグカップを私の手元から奥のテーブルへと運んでくれました。
先にソファーに座ったエンヴィーさんの隣に、1人分空けて座りました。
淹れたばかりの紅茶を冷ましながら一口含むと、エンヴィーさんが「あ」と何かを思い出したような声をだしました。
「名無しさんの友達さ、子供産まれたんでしょ」
「そうなんですよ!写真送ってもらったんですけど、あの子ソックリなんです」
クスクスと笑いながらそう言うと、彼は静かに私の方へ席を詰めました。
隣を見ると、エンヴィーさんは少しだけ悲しそうな表情をして私を見つめています。首を傾げて名前を呼ぶと、彼は気まずそうに口を開きました。
「名無しさんは、子供が好き?」
「はい、可愛いですよね!私もいい歳ですし、そろそろ子供も欲しいです」
ニコニコとそう答えると、エンヴィーさんは「そう…」と呟いて下を向いてしまいました。
「どうかしました?」
マグカップを置いてエンヴィーさんの手にそっと私の手を重ねると、彼はサッと振り返って私を抱き締めました。
突然のことにあわあわしていると、彼が静かに私の名前を呼びました。
「…名無しさん…僕、子供できないんだ」
「…え?」
「だから、将来名無しさんと結婚しても、名無しさんは子供を産めない」
「けっ、…こん?」
「うん」と言って、彼はさらに私をぎゅっと抱き締めます。
「それでもいいなら、僕と結婚して?」
いつだったかと同じように、彼の腕は少しだけ小刻みに震えていました。私はクスクスと笑って彼を抱きしめ返すと、不機嫌そうな声が降ってきます。
「…何笑ってるの」
「いえ?エンヴィーさん可愛いなーっと思って」
「僕真剣なんだけど」
「わかってますよ」
ぱっと顔を上げると、怪訝そうな表情のエンヴィーさんと目が合います。 こんな表情を見るのは久しぶりです。
「お返事、しますね」
「ぇ。あ…うわっ」
ドサッと、彼をソファーに押し倒すと、自分の唇を彼のソレに重ねました。ちゅっ…と、触れるだけのキス。
「エンヴィーさん、」
「幸せにしてください」
幸せになりました。
(愛してます、エンヴィーさん)
おわり。