ゆめめめーん
□また会えました。
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バキバキバキバキッ!
ドォーン!
大きな音が聞こえたのは上からでした。また新しい爆薬の実験でもしてるんだろうと、深く気にすることなくシャワー室に向かおうと立ち上がりました。
「…ぅ、あ…」
どろり、と先ほど出された精液が太ももを伝って流れ落ちました。全身から臭う生臭さは、慣れたはずなのに胃から物が全て出てしまうような、そんな吐き気を催しました。
「次、来るし。…シャワー、浴びよ…」
怠い身体を叱咤してシャワー室に入り、お湯を流しながらナカの精液をかきだそうと思いましたが、手首に回された麻縄を解き忘れられた為、仕方なく身体を流すことしかできませんでした。
しばらくすると、また大きな音が鳴りました。今度は、この建物全体が揺れるほどの大きな音です。
ビリビリと壁が振動しています。それでも私は気にせずに、身体を拭いて出ようとしました。
「身体、拭けないじゃん…」
どうしようもなくしばらくシャワー室に籠もっていましたが、次の男性達がくる時間が迫ってきます。
仕方なくびしょびしょに濡れたままシャワー室を出ると、3度目の大きな音がしました。
「、ぇ、何?」
流石にこんな短時間に3回も実験をするなんておかしい、そう思った私は傍らにあったタオルを手に取り必死に身体にかけるとその場に座り込みました。時間になったら誰かが捜しにくるだろう、そう思って。
上の階が、段々騒がしくなってきました。男性らの怒号と破壊音と苦しそうな悲鳴。いつもとは違う雰囲気が、ヒシヒシと伝わってきます。外部からの情報が一切ないこの部屋での何が起こっているかわからない騒ぎは、私にとって恐怖でしかなく、息を潜めて音が止むのを待ちました。
「…ん?」
ふと、静かになりました。先ほどまでの物音が嘘のように建物全体を静寂が包みます。
ペタン、ペタンと裸足で歩くような足音が聞こえました。
私は、何者かすらわからないその足音が、長い廊下の向こうから刻一刻と近づいてくる感覚に肩を震わせました。
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屋根から侵入した僕は、名無しさんを捜すためにきょろきょろと辺りを見回した。すると、ドカドカと下品な足音と同時に、「何者だ!」という汚い声。目線だけ動かすと僕の周りを5〜6人の男が囲んだ。人間なんかが、何人集っても僕に勝てるわけないのに、馬鹿でマヌケな奴らだ。だから人間ってヤなんだよ。
「答えろ!」
再び男の声が響く。
「うるさいなー」
ガシッと、男の頭を掴んだ。
「なんの真似…」
ぶちぶちぶちぶちと神経と血管と骨を順に引きちぎる。痛みで一瞬悲鳴を上げた口も、頭をもげば何も喋らなくなった。
「喧嘩は嫌いなんだよね」
「き、貴様!」
呆然と見ていた僕の背後にいた仲間の1人が引き金を引いた。当然、僕の頭にぶち当たった。
「…なに、死にたいの?」
シュルシュルと傷口が完治していく患部をみながら男は悲鳴を上げる。
「ひぃ!ば、化け物だ!」
ポロン、と弾き出された鉛玉を叫んだ男に投げ返すと、ちょうど眉間に突き刺さりそのまま後ろにドサッと倒れる。
「ねーえ、おっさん」
一部始終を呆然と見ていた一番近くにいた男に、僕は優しーい口調で口を開いた。
「僕、女捜してんだけど」
「お、女なら、地下だ!」
案外アッサリ教えてくれた男に踵を返しながら礼を言うと、明らかに安堵したため息が聞こえてきた。
「あ。忘れてた」
ピョンっと空中に飛び上がると不思議そうに見つめる男2人の顔面をメシメシメシと足で潰した。
自慢じゃないけど僕の体重はハンパなく重い。虫螻みたいなコイツらなんか一瞬で潰せるんだよね。
ゆっくり振り向くと、あと一匹の男が「ひっ」と短い悲鳴を上げる。
「名無しさん、地下っつったよね」
「な、名前なんか知らん!ただ、女は地下だ!」
「ありがとー」
僕はもう一度ジャンプすると、引きつる顔の男と共に床を破壊した。派手な音を響かせながらボロボロと落ちていく床の破片と共に薄暗い廊下に男の死体は落ちた。まあ僕は普通に着地できたけど。
「さてと」
名無しさん、もうすぐ会えるよ。
しばらく長い廊下を歩いていると、後ろから首筋にピッタリと刃物が突きつけられた。思わず足を止めて視線を動かすと、前方から男の声が聞こえた。
「誰だ貴様」
暗闇に目が慣れてくると、前方から歩いてくる人物に見覚えがあった。
「あーらら。こないだ殺し損ねた奴の顔だよ」
「何だと…」
あてられた刃物が僕の首に少しだけ差し込まれる。お前に言ったんじゃねーってのに。人間ってホント馬鹿。
「名無しさん」
「は?」
「名無しさんはどこにいんの?」
しばらく怪訝そうな表情をしていた男が、合点がいったような顔をしたと思えば突然笑い出した。
「ニ、ニルト?」
後ろの男も面食らった声色で思わず僕の首から刃物を離した。
「はっはっはっ…そうか、あの女名無しさんというのか…。貴様の女と分かっていたからな、あの時の復讐で女を誘拐し爆破でもしようと思ったが…」
"ニルト"と呼ばれた男は一旦言葉を切り、僕の方を見てニヤリと笑った。
「いい女だぜ。毎晩いい声で鳴いて、いい身体して…。あんなにいい女はひさし…」
カッと頭に血が上るのがわかった。
後ろの男の方を振り向くと、一瞬で腹に腕を貫通させた。苦しそうな悲鳴を一瞬上げると、そのまま後ろに倒れた。ぬちゃりと腕には肉片と内蔵、血液がびっちりついている。
僕はそれをペロリと舐めると、ニルトの方に向き直る。
「へぇ。で、名無しさんはどこ」
「…はっ、今から死ぬ奴に教えたって仕方ねぇだろ!」
バン!と大きな音を立てて僕の眉間には鉛玉が突き刺さる。そんなことしても、僕は死なないっての。鉛玉をポロンと取るとピン、とその辺に落とした。男の方を見やると、唖然とした表情で僕を見ている。
「…人造人間かよ」
「よく知ってるね」
振り向きざまに蹴りをお見舞いしてやると、大きな音を立てながら男は壁にめり込んだ。しとめ損ねたかなと思ったけど、首が有り得ない方向に曲がっていたので良しとする。
「こっちかな…」
静かになった建物の長廊下を、僕はゆっくりと進んでいった。
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足音がどんどん近づいてきます。
私はなるべく息を潜めて座り込んでいました。しかし、もしかしたら次相手をしなければならない男性なのかもしれないと思い、足だけでいそいそと立ち上がりました。
「…っ名無しさん!?」
「ぇ…」
久しぶりに呼ばれた名前に、思わず顔を上げました。
「……エンヴィー、さん…?」
たどたどしくその人物の名前を呼ぶとゆっくりと歩み寄られ、優しく腕に包まれました。全裸の私には少し冷たい温度の手と、暖かい胸の中でした。
「名無しさん…」
耳元で囁かれた声は、1ヶ月ずっと聞きたかった声でした。
「ごめん…」
突然呟かれた謝罪に、小さく首を傾げます。少しだけ、私を抱き締めている彼の腕が震えていました。それを隠すように、腕の力が強くなります。
「…遅くなって、ごめん」
今にも泣き出しそうな声色でした。私は、エンヴィーさんの胸元に顔を埋めると、小さく口を開きました。
「助けにきてくれて、ありがとうございます」
ハッと驚いたような表情で此方を見るエンヴィーさんに、ニコニコと笑いかけました。
「助けられるのは2回目です」
「…そうだね。僕も助けるのは2回目だ」
「毎回毎回お世話になります」
「ホントだよ。あんまり僕に迷惑かけないでよね」
「…どうして裸なんだとか、今まで何してたとか、聞かないんですか?」
「聞いたら僕、またイライラするから」
「…ふふっ、なんですかそれ」
口元に手を当てようとして、手首を縛られているのを思い出し、思わずエンヴィーさんを見上げました。彼は麻縄に気づくとすぐ縄を切ってくださり、もう一度私を強く抱き締めました。
「…おかえり、名無しさん」
私は、自由になった腕をエンヴィーさんの腰元に回し、抱きしめ返しました。
また会えました。
(ただいま、エンヴィーさん)