ゆめめめーん

□名前を呼んで貰えました。
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"エンヴィーさん"というお名前が分かって一週間が経ちました。会いに行きます、と言ったものの、任務の邪魔はするなときつく言われているわけで、いつ会いに行ったらいいか分からないんです…。
今日は珍しく雨で、買い物にも行けません。探しに行くのも今日はあきらめた方がいいみたいです。見晴らしのいい二階の窓からは、雨なのに煙が上がっている建物が見えました。雨というのは不思議なモノで、そんな非日常の事が起きているのにジメジメとした嫌な雰囲気から、私は興味も湧かず窓辺でぼーっとうなだれていました。うとうとしながらも、考えるのは彼のこと。

「エンヴィーさん、会いたいなー…」

そっと呟いたその言葉は、私の夢の中に消えていきました。


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次に私が起きたのは、大きな爆発音がしてからでした。鼓膜が震え、ビリビリと空気が痛いくらい振動するのを感じたのは、初めてでした。目の前の建物がもくもくと煙を上げて燃えています。さっきの音はあれが爆発したのかなと呑気に考えていると、後ろから腕を強い力で引っ張られ、バランスを崩しました。ぐらりと視界が歪み、倒れるかと思いましたがばふっと抱き留められました。
…ここは私の家です。私以外誰もいないはずなのに、誰が私を引っ張ったり抱き留めたりできるのでしょうか。…恐る恐る振り向くと、全く知らない、いかにも"俺達悪者ですよ"感丸出しの男性の方々三名(私を抱き留めてる方含めて)が、ニヤニヤしながら此方を見ていました。

「な、なんですかあなた達は…」
「悪いねねーちゃん。ちょっとの間人質になってもらうぜ」
「ひと、じち?」

急な展開でついていけず、ぽかんとしている私の首に手を回し無理やり窓際まで引っ張られました。そして、バン!と大きな音をたてて窓を開け、私の頭にチャキっと銃を突きつけながら、外に向かって叫びました。

「オラァア!こっちには人質がいるんだぞ!殺されたくなかったら逃走用の車用意しろ糞国軍共!」

頭に銃を突きつけられたまま、私は窓の外を見ました。青い軍服を着た人が何人も下から私達を見上げています。未だに状況がよくつかめない私は、一体なんなのか尋ねようと口を開きました。…が、私よりも早く下の軍人さんが分かりやすく説明してくれました。

「…ひ、卑怯だぞテロ組織!軍施設を何個も爆発させやがって、しまいには人質まで…!」

なるほど、あいわかりました。…ん、つまりは、私人質!?

「え、私人質なんですか!?」
「ねーちゃん呑気だね、今気づいたんかい」

相変わらずニヤニヤと気色悪い顔で私を見つめる男性に、急に怖くなりました。

「こ、殺すんですか?」
「まだ殺さねーよ、まだな」

ワッハッハと仲間内で豪快に笑う彼らを見て、冷や汗が一筋流れました。 …逃げないと…でも、どうやって…。


もう一度窓の外を見ると、少し強くなった雨が部屋に振り込んできました。顔に冷たい雨粒があたり、ちょっとだけ、私を冷静にさせてくれました。

…どうすればいいか、考えました。



けれど、何も思いつきませんでした。頭に浮かぶのは、先日会ったばかりの彼のこと。もうなりふり構ってられません。死にたくないんです。意を決して上体を窓から出すと、精一杯大きな声で叫びました。


「…エンヴィーさーんっ!助けて、助けてくださーいっ!」

急に大きな声を出した私に驚いたのか、男性は慌てて私の首に回していた腕でグイッと窓際から引き離し、床に振り落としました。

「…このアマ、ふざけんじゃ…っ「ほんと、ふざけてんじゃないよ」…!?」

…今一番聞きたい声でした。思わず顔を上げると、二階の窓辺にヒョイッと乗って此方を見ているエンヴィーさんと目が合いました。私は思わず頬を綻ばせて彼の名前を叫びました。

「エンヴィーさん!ほんとに助けにきてくださったんですね!」
「たまたま通りかかったら人の名前馬鹿でかい声で叫ぶ奴がいたからね」
「…エンヴィーさんっ」

気まぐれでもいい、ほんとに来てくれたんだ…!
その事実に泣きそうになった私は、ダッと床から起き上がり一目散にエンヴィーさんに抱きつきました。
こないだまでは、離れろ!ってしきりにわめいていたくせに、今は状況が状況だからかそんなことは言わず、私の頭をポンとなでた後、身体をヒョイと担ぎました。え?とぽかんとしていると、恐らく私と同じ様に始終をぽかんと見ていた男性達が、はっとしたようにエンヴィーさんに怒鳴り散らしました。

「てめぇ、何者だ!キザな登場しやがって!大事な人質共々逃がさねーぞ!」

言われた本人は興味が無さそうに彼らを見つめ、はぁ…とため息を付くとちらりと私の方を見ました。

「部屋、ちょっと散らかすよ」
「え?あ、はい、どうぞ…」

未だに呑気に会話していた私達が余程気に入らなかったのでしょうか。
男性の一人が、雄叫びと共にエンヴィーさんと私に襲いかかってきました。私は反射的に目を伏せましたが、いつまでたっても衝撃が走ることはありません。恐る恐る目を開けると、そこに男性の姿はなく代わりに床に転がった首と胴体がバラバラになった死体が転がっていました。

「…」
「やべぇってこれ…」
「何、お前らは襲ってこないの?」
「ヒィィ!お助け!」

情けない声を出しながら彼らは私の家から飛び出していきました。
つまんないの、と踵を返してエンヴィーさんは窓の外を向きます。…ち、ちょっと待って!

「体制を、体制を変えてください!」
「なんで」
「お姫様抱っこがいいんですっ」

語尾に星を飛ばしてみたら、相変わらず冷たい視線を向けられました。しかし、「しょうがないな」とわざわざ抱き直し、私がお願いした通りお姫様抱っこの体制を取ってくれました。
この素直さはどうしたものかと問おうかと思ったのですが、彼は早々に窓から飛び降りて人気がない場所まで連れて行ってくれました。私ですか?私は初めてのダイビング(6m)に緊張して失神しました。(多分エンヴィーさんはまたため息をついたと思います)



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「…ぁ?」

ふと目を覚ますと、エンヴィーさんの背中の上でした。まさかおんぶされているとは思わず、私は驚いてガバッと上体を起こしました。

「起きたんなら自分であるいてよね」
「…ぐーすかぴー」
「…ホント殺されたいのあんた」

呆れたようにため息を付きましたが、振り落とすようなことはなくそのままの体制で既に日が傾き始めたセントラル市を再び歩き出しました。

しばらく彼の背中の感触に浸っていたのですが、ふと聞きたいことを思い出し「エンヴィーさん、」と声をかけました。

「なに」

振り向くこともなく返事が返ってきましたが、私は気にせずに口を開きました。

「どうして、わかったんですか?」
「あんたの場所?…こないだ会ったときあんた言ってたじゃん、『また会いに来ます』って」
「? はい」
「一週間してもこないから、死んだかと思ってあの裏路地辺りの家探してたら、たまたま」
「…エンヴィーさん、」
「なに…ぅわっ」

私は、エンヴィーさんの首元にぎゅうっと抱きつきました。元から回してはいたのですが、頬を擦り寄せ力を強めると、彼の口から驚いたような声が漏れます。

「助けにきてくれて、ありがとうございます!」
「…ま、名無しさんが無事で良かったよ」

ふいに呟かれた言葉に、思わず呼吸が止まりました。そんな私をわざわざ足まで止めて怪訝そうに振り返るエンヴィーさんに、私は今日一番の笑顔を見せてもう一度抱きつきました。


















名前を呼んで貰えました。
(デレの割合に、驚愕です!)

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