ゆめめめーん

□会えなくなりました。
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「エーンヴィーさーんっ!」
「はいはいちょっと待ちなよ」

季節もすっかり冬に入り、天気が悪かったら雪が降りそうな、そんな寒さです。今日は、私のお友達の結婚式のお祝いのお花を、エンヴィーさんと一緒に買いにきました。久しぶりの2人でのお出かけにワクワクしてしまい、少しだけ先を歩く私の後ろでエンヴィーさんが口を開きました。

「それにしてもさ、」
「はい?」

振り返って返事をすると、エンヴィーさんは不思議そうな顔をして首を傾げました。

「名無しさんの友達ってことはさ、ずいぶん早い結婚なんだね」
「え?そうですか?」
「まあ人間の感覚なんか分かんないけどさ、15、6歳で結婚って一般的には早いんじゃないの?」
「…?」
「?」

お互いポカンとした表情を見せ合いましたが、先に口を開いたのは私でした。

「私の友達はもう23歳になりますよ」
「そうなの?大分年上の友達がいるんだね」


「年上?いえ、」
「私と同級生ですよ」


「え?」
「え?」

どうも話がかみ合いません。怪訝そうな表情を浮かべたエンヴィーさんが「…待って」と口を開きました。

「名無しさんって23歳なの?」
「はい、そうです。三年前に無事成人しました」
「……」
 
呆れたようにため息をつくエンヴィーさんの心情が分からず、思わず眉をひそめました。

「老けて見えます?」
「…いや、若く見える。てか、若すぎ」
「本当ですか!?」

思ってもいなかった言葉に嬉しくなって、エンヴィーさんに抱きつきました。この年になると「若い」という言葉に過剰に反応してしまうんです。スリスリと胸元に額をこすりつけていると、頭上から彼のため息が聞こえてきました。

「あのさぁー」とあまり機嫌がよさそうではない声を出す彼に目を向けると、案の定不機嫌そうな表情をしているエンヴィーさんと目が合いました。

「もうちょっとさ、危機管理とかないわけ?」
「危機管理、ですか?」

ポカンとしている私を見ながら、ガリガリと頭をかくと「だからね」と言葉を繋ぎます。

「誰彼構わずこうやって抱きつくのはどうかと思うわけ」
「私はエンヴィーさんにしかしませんよ?」
「…もういい」

もう一度呆れた表情を作ると、腰元にまわしていた私の手をグイッと引っ張りずんずんと先を歩き始めました。慌てて歩幅を合わせながらふと彼の方を見ると、少しだけ見える頬と耳の先が赤く染まっているのが見えました。



買い物が終わりホテルに帰ろうかというときに、エンヴィーさんが「あ、」と声を漏らしました。

「僕、ちょっとグラトニーに伝言があったんだ」
「そうですか…。では、先に戻っていますね」
「うん。そんなにかかんないと思うから」

部屋で待ってて、なんて言われるとなんだか恋人みたいで思わず口角があがります。ニヤニヤしてる私に気づいたのか怪訝そうな視線が私に向きましたが、いつものことなので呆れたため息と共に視線は消え、変わりにエンヴィーさんの口が開きました。

「じゃあ、またあとでね」
「はい、エンヴィーさんお気をつけて」
「…名無しさんもね」

私の頭をポンと撫でると、エンヴィーさんは私とは逆方向に歩いて行きました。…私も帰ろうかと、ホテルの方に足を向けました。

「あれ?」

"メイフラワー通り"

気づかないうちに、家の近くまで来ていたようでした。あの事件から全く近寄っていなかったこともあり、興味本位で寄ってみることにしました。

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「…うわぁ」

来なきゃ良かった、そう思いました。無惨な男の死体さえなかったものの、血痕は生々しく残っており、散らかった家具もそのままでした。あの時の怖かった記憶がスルスルと蘇ってきます。気分は悪くなる一方で、帰ろうと思い踵を返した、瞬間。

ドンッ。 と。

鈍い音が聞こえた後に、後頭部に鈍痛。

「…な、…に…」
「こないだの仲間の借り、返してもらうぜ」

何の話なのか、私にはサッパリわかりません。それを問おうにも、意識は遠のくばかりで口はパクパクと意味のない音しか紡ぎませんでした。

ぷつり。 と。

意識が途絶えました。




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グラトニーに用件を伝えると、「わかった〜」とわかったのかわかってないのかなんとも分からない返事を返された。
よくこんな奴とラストはつるんでんな、と思う。僕だったら疲れるから、任務も1人の方が楽だ。
…疲れる。

名無しさんといると疲れる。妙にいつもベタベタしてくるし元気だしいい大人の癖にはしゃぐし…。
しかも無防備だし。すぐ抱きついたりして好きとか言って、僕を振り回す。別に僕は奥手のドウテイとかじゃないし、むしろ所謂遊び人に分類される位の経験数はある。

だけど。

名無しさんには、振り回されて、疲れる。

「そんな名無しさんにハマっちゃってるのも否めないんだよねぇ…」

気づいたら彼女の部屋に行って、時間を過ごしている。
友達、なんて言われたけど正直不満。

「別にそれ以上求めてる訳じゃないんだけどさ」

ただ、僕以外の誰かが、名無しさんに触れたら、そのときは。

「あれ?」

心にかかる、黒いもや。

「エンヴィー、ってワケね」

恥ずかしい独り言を自嘲気味に言いながら、僕はホテルへと足を運んだ。
多分、部屋で僕を待ってて、僕がドアを開けたら笑顔で飛びついてくるような彼女が、待っているホテルへ。

「ちょっと位相手してやるかな」

口元で描いた弧は、僕以外誰も知らなかった。



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「ん?」


ホテルに帰っても、名無しさんは部屋にいなかった。別れてから二時間くらいたつのに、戻ってきた形跡は見あたらなかった。

まあ、昼間一応成人してることがわかったんだし、別に帰りが遅くなろうが僕には関係ないことだし。

「そのまま友達の所いったってのもあり得るし」

うんうん、と1人納得してベッドに座る。毎日シーツは変えられている筈なのに、なんとなく彼女の香りが鼻を掠めた。

「…早く帰ってこないと相手してやんないよ」

そんな言葉をポツリと呟いて。
僕はベッドに倒れ込んだ。帰ってきたら起こすだろう、なんて考えながら。



























彼女は、1ヶ月たっても帰ってこなかった。
















会えなくなりました。
(流石におかしいかなって、思い始めた)

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