ゆめめめーん

□毎日会えるようになりました。
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例のテロ騒動の後、私の家は事故現場としてしばらく立ち入り禁止になりました。事件、ではなく事故扱いなのは、エンヴィーさんが軍の知り合いに頼んだからそう…。処理が色々面倒らしく、私もあまり詳しく教えてはもらえませんでした。
そんな訳で、今家がない私は、軍関係のホテルをしばらく借りることになりました。(これも知り合いの人が手を回してくださったとか…)

ガチャ、とドアノブを回す音が聞こえました。音のする方を見ると、短髪の軍人さんが立っていました。

「エンヴィーさんっ」

思わず緩んでしまう頬を抑えきれずに、まだ変身を解いていない彼に抱きつきました。彼のこの能力で、自由に出入りしてくださり、最近は毎日このように会いに来てくださるようになりました。

「…暑苦しいんだけど」
「大丈夫ですっ」
「あんたじゃなくて」

ため息をつきながら身体を元に戻していくエンヴィーさん。その様子を、私は抱きつきながらじーっと眺めました。

「…なに」
「いえ…それって、どういう原理なのかなーって」
「僕に聞いてるの?」
「はいっ」
「知る訳ないだろ、あと離れて。暑い」

冷たくあしらわれ渋々離れると彼はベッドにばふん、と倒れ込みました。

「そうだ名無しさん」

ぱっと枕から顔を上げ、私の方を見る彼にはい?と首を傾げます。

「今日ラストと買い物行くんだったよね?」

エンヴィーさんがおぶってくれたあの日、ラストさんとグラトニーさんとばったり会いました。ラストさんは何かと私を気にかけてくださり、確かに買い物にも誘われたんですが…。

「…あれ、エンヴィーさんどうしてご存知で…」
「ラストが行けなくなったってさ。…だから代わりに僕が着いていくから」
「えぇ……っえええ!いいんですかっ!」

思わず叫んでしまった私を煩そうにみる彼に気づいて「あ、すいません…」と小声で謝りましたが、それでも聞き間違いかと思いもう一度エンヴィーさんに尋ねました。

「ほんとに、一緒に行ってくれるんですかっ」
「…早く準備しなきゃ置いてくよ」
「ま、待ってくださいっ行く、行きますからー!」





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その日以来、エンヴィーさんは何かと理由を付けて会いに来てくださるようになりました。そして、たまに一緒にでかけたりとすることも増えました。

「エンヴィーさんっ」
「なに?」

ベッドに寝転がって読んでいた本から顔を上げ、私の方をチラリと見やりました。私はピョンとベッドに飛び乗ると、仰向けに寝ていたエンヴィーさんの上にぴったりと寝転がりました。
丁度エンヴィーさんの胸板辺りに私の頭が来るような体勢をとると、案の定頭上からため息が降ってきましたがそれ以上の制止はありませんでした。

「好きですっ」
「あっそ」
「一番仲良しの友達です!」
「…あっそ」

「あ、そうだ」と上体を起こしてエンヴィーさんを見ると、「今度はなに…」と若干面倒そうな顔をしてこちらをみました。…なんだかこの体勢って、

「襲ってるみたいですね、私が」
「…誰を」
「エンヴィーさんをっ」

ニコニコと笑う私をしばらくじっと見つめた後、読んでいた本をパタンと閉じてグイッと私の肩をつかみました。反射的に目を瞑ると、ぐるりと身体が反転したような気がしました。…反転?
ゆっくりと目を開けると私の上でニヤリと口角を上げているエンヴィーさんと目が合います。

「名無しさん、」
「っはい?」

今までにないくらい色っぽい声で名前を呼ばれ、思わず返事が裏返りました。そんな私に更に口元を緩めた彼は、私の耳元に近づいて口を開きます。

「…僕が襲おうか」
「喜んで!」
「…」


素直に返事をしたら、エンヴィーさんの表情が怖くなりました。なんとなく、(ムードを壊しやがって)と顔に書いてあるのがわかりました。しかし、エンヴィーさんに言いたいことがあったのを思い出したのでそんなものは無視です!

「今度お友達のとこに遊びに行ってきます」
「へぇ」
「お土産買ってきますねっ」
「ふーん」
「あ、そうだエンヴィーさん」
「なに?」
「エンヴィーさんは、寒がりですか?」

私の唐突な質問に、エンヴィーさんは眉間に皺を寄せて「はぁ?」と声を洩らしました。しかし、少し考えるように斜め上に視線を向けると「そうだね…」

「寒い方が苦手かも」
「わかりましたっ」
「何が聞きたかったわけ」
「いえ。エンヴィーさんが寝ている間、お腹に熱湯をかけるのと氷水をかけるのはどちらがダメージが大きいのかなと思って…。氷水かけますね!」
「…」
「冗談ですから、無言で首に手を刃に変身させないでくださいよっ」

慌てて謝ると、エンヴィーさんは腕の形を元に戻してくれました。

パキパキと音を立てながら腕を元に戻していく様子を見つめていると、怪訝そうな顔をしてエンヴィーさんがこちらを見ました。

「…そんな見てるけど、見ても原理わかんないと思うよ」
「けど、どんなマジックにもタネはあります」
「いやこれマジック違うし」
「…え!」

思わず元に戻った腕を触ると、呆れたような溜め息が頭上から聞こえます。今日何回目の溜め息でしょうか。

「僕人間じゃないからさ」
「はぁ…」
「信じてないし…」

「だからー」と、再びパキパキと音を立て今度は顔を部屋に入ってきたような軍人さんに変身させました。

「できないでしょ、名無しさんには」
「できないです」
「でも僕にはできるでしょ」
「できるです」
「…。だから僕は名無しさんとは違うの」
「…なるほど!」

私が合点がいったような表情をして安心したのか、彼はいつもの顔に戻しチラリと時計をみました。すると、「ゲッ」と眉をひそめました。

「そろそろ戻らなきゃ」
「そうですか…。また明日お待ちしてますっ」
「…勝手に待ってなよ」

そう言って、彼はいつも次の日来てくれるんです。

「エンヴィーさん、」
「ん?」

よほど急いでいたのか、顔は此方に向けずに返事をしたエンヴィーさんに、精一杯の笑顔をおくりました。



「行ってらっしゃい」
「…行って来ます」


























毎日会えるようになりました。
(また明日待ってます!)
(毎日会えるって、幸せ!)


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