ゆめめめーん

□出会いました。
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セントラルのメイフラワー通り。の、裏路地。私の家は少し込み入った所にあり、そこを通らないと家に帰れないのです。み、見晴らしだけは良いんですよ私の家!
まあ、今日もそんな薄暗い裏路地をいつものように買い物帰りに歩いていました。普段から誰も通らない裏路地は、私の以外の人が通っているところを見たことがありませんでした。…『でした。』というのは、今まさに、私の目の前に、この裏路地に、私以外の人間が立っていたからです。長髪に、長い手足を惜しげもなく晒しお腹まで出しているその服装は、肌寒いこの季節にとって、不審者以外の何者でもありません。できれば関わりたくなかったのですが、この路地はとても狭く、人1人が通るのが精一杯の広さなので、この方にどいてもらわなければ私は家に帰れません。声を掛けようにも、その方はしきりに表通りの方を見つめられていて、何かを見張っているような、そんな雰囲気でした。
ふとその方が此方を見ました。あまり機嫌がよくないのか、眉間に皺をよせながら口を開きます。

「…何、見せもんじゃないんだけど」
「え、男?」
「はぁ?」
「あ、ごめんなさいっ」

すごく睨まれました。頭を下げて謝ると、もう一度「てか何?」と声が降ってきます。なんだかとても…とても…。



とても、素敵な方です…!
ハスキーな声は私の耳に心地よく響き、ヘアバンドで押し上げられた長い髪は、見た目よりもサラサラとした質感でキューティクルも光っています。露出されたお腹も程よく引き締まっており、良く見れば女性とは程遠い男性的な身体付でした。

「今おチビさんの監視中で、邪魔するんならあんた殺「お名前を!」…は?」

男性の声を遮って、私は声を張り上げました。私よりも15センチは高いであろう彼を見上げながら、グイッと顔を近づけてもう一度口を開きます。

「お名前を、教えてくださいっ」
「…はぁ…なんなの、あんた」
「ナンナノアンタさんですか、不思議なお名前ですね!」
「…めんどくさ」

もう一度ため息をつかれると、ナンナノアンタさんは再び視線を表通りに戻しました。すると、はっとした表情をしたあとに、すぐに舌打ちの音が聞こえました。

「…変なのに気取られて見失った…ちょっとあんた、責任とってよ」
「責任!?…そんな、早すぎます…第一まだ私達出会ったばかりだし…」


頬を赤らめながらそう言うと、彼はまためんどくさそうに舌打ちをして表通りをちらりと見ました。

「…しょうがない、ラストにお小言言われなきゃな」
「行ってしまうのですか?」
「見つけられない所にいたって仕様がないだろ」
「…そうですか」
「…おい、人間」
「はい、なんですかナンナノアンタさん」

不思議な呼び方でしたが、私を呼んでくれたことが嬉しくて笑顔でそちらを向きました。
すると、腕を刃の形に変形させたナンナノアンタさんが私を壁に押し付けました。首元に微かに刃が当たり、皮膚が切れて血液がツ…と流れ落ちるのが分かります。

「あんたのせいで任務失敗したんだけど。さっきからふざけたことしかぬかさないし。死んどこうか、ん?」
「ぁ…あ、っ」
「今更命乞い?これだから人間は…」

やれやれと呆れたように首をふり、ナンナノアンタさんは腕の刃を更に私に押し付けました。

「、そ…そ、ぅ…が」
「そ?」
「…そういうプレイがお好きなのですか!私、未体験ゾーンですがそれでもよろしかったら!」
「…」

ニコニコと口角を上げてナンナノアンタさんに語り掛けました。それでも彼は、冷たい舌打ちとため息しか返してくれません。しばらく私のことを見つめてくれましたが、やがて呆れたようにため息をつき、腕を元の形に戻すとぴょんっと傍らの建物の屋上に跳びました。慌てて視線で追い掛けて彼を見上げると、彼も私を見下してこう言いました。

「次任務の邪魔したらほんとにぶっ殺すからね。二度と僕の前に現れるなよ」
「また会いたいです!」

微妙に会話がかみ合わなかったのは気のせいです。私が笑顔で返事をすると、とても不機嫌そうな表情で踵を返して行ってしまいました。…ナンナノアンタさん…次はいつ会えるのでしょう。

















出会いました。
(何か楽しいことが始まる予感がしたんです)

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