ゆめめめーん

□野球拳
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「というわけで」
「何が」
「野球拳しようか」

10月。まだまだ暑い日が続くかと思いきや、肌寒い日がちょこちょこあって、着るものに困る、そんな月。たまたま今日は寒い日で、まだ夏物の服しか出していなくて、我慢できなくて、少し早いがコタツを出した。
ご丁寧にみかんを置いて、お互いに向き合って黙々と甘皮と格闘しているところに、そんなハスキーな声が響いた。思わず怪訝な顔をして彼の顔を見ると、ニコニコとした目と目が合う。

「そんな顔しないでよー。名無しさんちゃんの可愛い顔が台無し」
「いや、1人で野球拳って珍しいなーって」
「僕1人でするんじゃないよ…名無しさんちゃんと一緒にするんだ」


いい提案でしょ、と言わんばかりにグイッと顔を近づけてくる彼。そんな彼を無視して、私は上げていた顔をみかんに戻し、再び甘皮と格闘を始めた。


「えー、嫌?」
「寒いからコタツ出したのに、なんで服脱ぐの」
「そりゃもちろん名無しさんちゃんと遊びたいから」


視線もやらずに答えても律儀に返ってくる返事に、私は再び顔をあげエンヴィーと目線を合わせた。


「一緒に遊びたいの?」
「うんっ」


ニコニコとした表情を浮かべる顔の彼を見ながら、私は自分の後方へまだ剥いていないみかんを1つ転がした。


「何してるの?」
「遊びたいんだろ、拾えよ」
「…僕が知ってる野球拳じゃない」


むすくれたように唇を尖らせて、そーじゃなくてさ、と言いながらもそもそと私の隣に移動した。

「名無しさんちゃんのストリップショーみたい」

呆れながらもう一度彼を見た。ニッコリ笑いながら肩に手を置きいやらしい手付きで首回りをなぞっている。変態親父か。


「私だけ脱ぐみたいな言い方しないでよ。エンヴィーも負けたら脱ぐんだよ」
「僕が名無しさんちゃんに負ける訳ないじゃん」
「言ったなー。じゃあいいよ、やろっか」


私が体ごとエンヴィーに向き直ると、彼は嬉しそうに同じように体をむきなおした。


やーきゅーうーすーるならー


「よよいのよい!」
「えっ、」


不意を突かれた。普通に歌詞の続きを歌い、開いた状態でリズムをとっていた掌に対してじゃんけんが行われてしまった。私はパー。エンヴィーはチョキ。


「やったーっ。名無しさんちゃんカーディガン脱いでー」
「エンヴィーずるくない?」
「ずるくないずるくない」


さ、脱いでーとニヤニヤしながら急かされ、渋々着ていたカーディガンを脱ぐ。…寒い。次は勝つぞ。

「じゃ次。いくよー」


やーきゅーうー


「よよいのよい!」
「…」

「またーっ?」

同じ事をやられた。再び私はパー。エンヴィーはチョキ。

「やっぱりエンヴィーずるいよ」
「ずるくないよージャンケンで勝ったことは事実なんだから」

次はレギンス脱いでね、と当たり前のように言われ、流石の私も腹が立ってきた。…ジャンケンで勝てばいいんでしょ。ニヤリと心の中で笑った私に気づかず、エンヴィーは楽しそうに口を開く。

「名無しさんちゃん次ねー」
「よい!」
「え」

おかえしだ。既に野球拳ではなく不意打ち合戦になっているのには目をつむっていただきたい。何はともあれ私はパー、彼の掌はグーを指していた。当然、私の勝ち。

「ちょ、ずるい!」
「エンヴィーがそれ言う?」
「…」

悔しそうに私を見るも、「まあ一回だけだし」と自分に言い聞かせ、着ていたタートルネックのシャツに手をかけた。

「脱ぐのそれじゃないよエンヴィー」

ポカンとした表情を見せたすぐあとに合点がいったのか、なるほどねーと再び口元を緩める。

「靴下とかもありなんだね」

助かったーとニコニコしているエンヴィーに負けないように、ニコニコしながら口を開いた。

「パンツ脱いで」
「…ん?」
「パンツ脱いでよ。ジャンケンで勝ったことは事実なんだから」

絶句するエンヴィーに、更に追い討ちをかける。

「あと、一週間えっちなしね」
「…何で!?」
「だってみかん粗末にしたし」
「それ投げたの名無しさんちゃんだよね!?」

嫌だ、一週間とか無理、死んじゃう、むしろ下半身だけ生き残っちゃう、と泣きながら訴えられたため、しょうがなく一週間えっちなし案は取り下げた。

「とりあえずエンヴィー」
「…はい」
「脱ごっか」


しばらく固まっていたエンヴィーだったけど、私の視線に観念したのか、渋々立ち上がってズボンとパンツを下ろした。

「…名無しさんちゃん、寒い」

下半身丸出しで、非常に情けない格好をして突っ立っている彼が言うことを無視して、私はコタツを出る。そして、すぐそばに転がっていたみかんを拾って、エンヴィーと少し距離を取った後向かい合った。

「さあいくよー」
「え?」

ポカンとしているエンヴィーを無視して野球のピッチャーのフォームを取ると、意図が分かったのかあわあわと焦りだした。

「エンヴィーのバットで私の球、打ち返せるかなー」
「…え、待って、名無しさんちゃん、待って!それはだめ!だめ!」
「やーきゅーう!」










いやああああああああああ









「あ、みかん潰れた」











野球拳
(そういえば野球拳と野球って別物か、エンヴィーごめんね、えへへ)



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