ゆめめめーん

□Let's Taking.
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「あらカイルちゃん。お一人なの」


ある宿に宿泊中。ある用事でジューダスを探しに外に出ると、カイルがベンチに1人座っていた。てっきりリアラちゃんといると思ったから意外だった。思わず声をかけると、屈託のない笑みと共に返事をくれる。


「あっ名無しさん!…って、なんだよその変な呼び方!」
「いや特に意味は無いんだ。人生に意味を見いだし始めたらキリがないからね」


適当なことを言うと彼は思案するように腕を組んでうなり始める。考えても答えなんて出ないのに、足りない頭で一生懸命考えた答えは「名無しさんすごい!」だった。


「そうでしょ。まっ、私は英雄だからね」
「名無しさんも英雄だったの!?すごい、なんで教えてくれなかったのさ!」
「まあ、えっと、なんでだろうね」


自分からまいた種なのに回収するのが面倒になった。ド天然も困ったものだな。どう返そうか迷ったところで、本来の目的を思い出してそういえば、と不自然に会話を切った。大丈夫、カイルだから何も思わない。


「ジューダス知らない?今探してるんだけど」
「え?知らないなあ…見かけたら声かけとくよ」
「ん、ありがと」


ほらね。こういう時役立つド天然。こういう時にしか役立たないド天然。こういう時にこそ役立つド天然。すごいぞ天然、まあ伊達に養殖を敵視してないな。


「カイルは養殖なんかに負けちゃダメだよ」
「わかった!俺、必ず神を倒すよ!」


今の会話で何が分かったのか私にはさっぱり分からなかった。妙にスイッチが入ってしまい意気込む彼を放置して、私は彼を探しに街の方へ出かけた。




「リアラちゃーん」
「あ、名無しさん。どうしたの?」


街の露店で見かけたリアラちゃんは、声をかけた私に意外そうな顔を向けてきた。ていうか大丈夫なの君、丸腰でそんな格好で外出て…襲われても知らないからね。


「いや、ジューダス見なかった?」
「ごめんなさい、知らないわ」


申しわけなさそうに謝るリアラちゃんに、まるで私が悪いことをしているように感じた。これが慈愛…これが聖女パワー!


「ごめんね、たいした用事じゃないのっ。いないあいつが悪いんだから。もう全部あいつが悪い」


うんうんとひとりでに納得する私を不思議そうに見つめるリアラちゃんだったが、そのうち我慢ができないといった風に笑い出した。クスクスと手を口元に添え、これぞ女の子!というテンプレートを見せつけてくれた。可愛いな、おい。


「ジューダスは知らないけど、あっちの店でナナリーを見たわよ」


彼女は知ってるかもしれないわ。と言いながら指さされた方向には、確かに見慣れた赤いツインテールが見えた。


「ありがとう。じゃあ暗くなる前に帰っておいで」
「うん。名無しさんもね」


バイバーイ、と手を振り合い、私はナナリーの元へ駆け寄っていった。




「ナナ、……?」


声をかけようと手をあげると、ナナリーは装飾品のコーナーを一生懸命見ているところだった。あんまり一生懸命見ているので手を上げても恐らく気づかないだろう。仕方なく控えめに腕をつつくと、案の定すごく驚いて私の存在に気づいてくれた。


「な、なんだい名無しさんかい…声くらいかけなさいよっ」
「ナナリーがあんまりにも一生懸命見てたから声かけづらかったんだって」
「なるほど、そりゃ悪かった」


先ほどのリアラちゃんとは違い、あっはっはっと腕を組んで豪快に笑うナナリーは素敵だった。リアラちゃんとはベクトルが違う素敵さ。姉御肌。一生ついて行きたい頼もしさ。一家に1人、ナナリー・フレッチ。


「という訳で保険プランに組み込んだら凄い安心だと思うんだ」
「き、急になんだい…」
「なんだろう?」
「わかんないのかい!?」


あんたにわかんないならあたしにもわかんないねぇ。と、ちゃんと乗ってくれるナナリーはやっぱり素敵。姉御!自分姉御の為ならお命なんて捨てられます!ばかやろう、簡単に命捨てるだなんて言うんじゃないよ!…っは!自分、間違ってました!自分、やっぱり姉御に一生ついて行きます!名無しさん!姉御!


「という訳で私たちは熱い抱擁を交わそうか」
「何を考えるとという訳でって接続詞がはいるのよ…」


呆れたようにため息を付くナナリーだったが、ふと何か思い出したように私に向き直る。


「ロニが探してたよ。ジューダスが呼んでるけどいないからって」
「え?ジューダスも私のこと探してるの?」
「なんだい。あんたも探してたのかい?」


ロニなら宿にいるよともと来た道を指さされ、意味のない時間を過ごしてしまったと再確認した。

情報を提供したナナリーに感謝しつつ、私は再び宿へと向かった。




途中ハロルドを見かけたが、


「なんでこの値文献値越えるのよ…あ。もしかして私サンプルを早く作りすぎて加水分解しちゃったわけ?あちゃー、だから濃度が低くなって実験値が高くなったのかー失敗失敗〜」


なんて訳の分からない言葉が聞こえたので無視をした。怖い、あのモードのハロルドとは絡みたくない。




宿につくとロニとジューダスがロビーで待っていた。カイルとリアラが私が彼を探していることを2人に伝えといてくれていたようだった。肝心の2人の行方を聞くと、無言で部屋を指さされた。ほどなくして聞こえてくるリアラの嬌声。全てを察した私たちは笑い合った。無意味に。


「ところで、ジューダス。私をさがしてたんでしょ?どう、見つかった感想は」
「ふん、相変わらず自意識過剰な奴だな」
「素直に見つかって嬉しいって言いなさいよ」
「誰がお前なんか見つけて嬉しいもんか」


はぁ、と思わずロニとため息が被る。じゃあ私帰るよ?と試しに言ってみると分かりやすく慌てるもんだから、再びロニと今度は笑い声が重なった。ジューダスは何故かロニだけにネガティブゲイトを放つと、私の手を引いて部屋へと連れて行った。ロニが苦しそうに唸ってたけどまあ無視だ。大丈夫だろ、ロニだし。



部屋に入ったものの沈黙を通すジューダス。隣から聞こえる喘ぎ声に我慢できなくなった私は、自ら口を開いた。


「あのさ、私もジューダスに用事あったんだよね」
「…カイル達から聞いている」
「えっとさ、…誕生日おめでとう」


まさか私から言われるとは思ってなかったのか、明らかに驚いたように目を見開く。「ほら、ジューダスって有名人だし」と種明かしをすると、合点がいったのか納得したように頷いた。


「…まあ、誕生日なんて嬉しくもなんともないがな」
「照れなくていいから」
「照れてなどいない!」


恥ずかしそうにそっぽをむくジューダスに、今度は話題をふる。一体私への用事とはなんだったのか。 そう尋ねてもしばらく渋っていたが、観念したようにポツリポツリと話し始めた。


「…お前と…名無しさんと一緒に話したくて宿を探したが居なくてな。仕方なくロニに尋ねても知らないと言われたから…。別に用事もないんだ。呼び出してしまってすまない」
「そうだったの?なんだー」
「…お前…なんだで片付けるんじゃない…」


ひどく脱力したようにため息をつくジューダスに、私はにっこりと笑いかける。


「だって今から話せばいいじゃない」


しばらく私のことをぽかんと見つめていた彼だが、ふっと糸が切れたように笑い出して私に向き直る。


「…では、話そうか。ゆっくり、な」
「うん」




その日の時間は、とても早く感じられた。







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「あー…いてで…ちくしょージューダスのやろー」
『あっん、あぁっ、カイル、カイルゥ!』
『リアラっ!』
「…ちくしょぉおおお」

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