ゆめめめーん

□I love you.
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「…泣くな名無しさん。僕は幸せなんだ」
「うっだっ、て、恩人さん、いなくなっちゃうっ」
「…僕は生きるさ。必ずお前を迎えに行ってやる。だから」


待ってろ。


「…さらばだ」


最後に私の髪を撫でて、恩人さんは光に包まれて消えていった。
するとすぐに私の体も光に包まれ始める。


「…なんだ、俺たちもか」
「大丈夫だよロニ!私、2人に会いに行くからっ…恩人さんと一緒に!」
「…そうだね。俺たちも待ってるよ!きっとリアラも、一緒に待ってる」
「カイル…」


希望ではなく、確信したような目でそう言うカイル。私はそんな彼に笑顔で頷いて、それから2人に手を振った。


「じゃあね!…またあとで!」


瞬間。視界が真っ白になり、私の意識は途切れた。




****

「…迷った」


ダリルシェイドにお使いに行った帰り道。行き道では通らなかった森に、なぜか私はいる。ホントに謎だ。一本道だったはずなんだけど…。ちょっとだけオカルト臭がするのは気のせいだ。

とりあえずもと来た道を戻ろうと踵を返した。


「ワォオオオオ」
「…うわあああ」


ザシュッと。モンスターの爪が地面に突き刺さる。
間一髪で避け、後退りして距離を置く。…確か目を見ながらするといいらしい…って追いかけてきたー!そういやコレ蜂の対処法だ!もういやだ!

半分泣きそうになりながら森の中を走り抜ける。息も絶え絶えになるが、こんな所では死にたくないため必死に足を動かした。しかし運悪くたどり着いた先は行き止まり。蔦や蔓が邪魔して先に行けないのだ。はっとして振り返ると、先ほどのモンスターが爪を振り上げて襲いかかってきた。


…もうだめだ…!


思わず目を瞑り身を屈めてしまったその時。
シュッと風を切る音と、一瞬の鈍い悲鳴をほぼ同時に耳で捉えた。いつまでも痛みが来ずに恐る恐る目を開けると、黒髪で黒い服のマントを羽織った少年。手には細身のレイピアが握られていた。…あれ。


『…、とうございます!なま…は?』
『……、まえか。…くには…いものだ』


…なんだ、この記憶。


「あ、の」
「…なんだ」


少年の心地良いテノールが、緊張しきっていた私の心を癒やす。どこか懐かしい。この感情。


「ありがとうございます。…お名前は?」
「名前か…僕には必要ないものだ」


…デシャヴ?


『おん…さんっ遊ぼう!』
『馬鹿が。寝ろ』

『…じ…さん!これ、お土産!』
『…ナ…に渡せ。…からのプレゼントだとな』

『…っさん、いなくなっちゃうっ』
『迎えに行ってやる。だから』




「おんじん、さん」
「…いつまでその名前で呼ぶんだ」
「エミ、リオさん…待ってました」
「あぁ。…待たせたな」


思わず涙目になった顔をゴシゴシと擦って、改めて彼を見る。…ほんとに恩人さんだ…。


「ひどい顔だぞ」
「元から、ですっ」
「…まぁ、生きていたことを祝ってやる」
「こちらのセリフですよ!」


以前と変わらない皮肉に嬉しくなって、思わず彼に飛びついた。あたふたとしている恩人さんが容易に想像できるが、まあ無視をする。


「おい!」
「…もうどこにも、行かないでください…っ」
「…」
「約束、しましょ」
「…ああ。約束する」


胸板にピタリと頭を付けると彼の鼓動が聞こえてくる。もう止めたくない、心臓の音。


いつのまにか彼の腕は私の背中に伸び、抱きしめられる体制となっていた。


「エミリオさん、大好きです」
「…僕もだ。名無しさん、愛してる」


「…くさっ」
「貴様…言って良いことと悪いことが…」
「すいません!や、だって…うふ」
「ほう…死にたいのか」
「いやあああああ」


森の静寂を打ち破るように、私の悲鳴と彼の怒号が響き渡った。…でもよかった。会えて、よかった!


「エミリオさん!」
「なんだ!?」





「愛してまーす!」




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お題より。

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