ゆめめめーん

□休暇中にて
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イクシフォスラーに乗ること数時間。私たちはノイシュタットに降り立った。神の卵…それが出現するまでの間は、悔いのないように過ごそうと決めた私たちは、ナナリーとハロルドが訪れたことのない街を回ることにしたのだ。ノイシュタットは以前訪れたときと変わらず、雰囲気のよい穏やかな空気だった。しかし連戦の疲れからか、宿を取ろうと言い出したのは意外にも恩人さん。


「各自別行動でいいな。僕は宿で休む」
「わかった!ジューダス、気をつけてね!」
「あぁ」


心配してくれたカイルに、はしゃぎすぎるなよと忠告してから宿の方へ歩いていった。
うーん…恩人さんと遊びたかったのにこれじゃ無理っぽいなあ。


「カイルっ、向こうの港へ行きましょう!」
「リアラの行きたいところだったらどこへでも!」


「あたしゃアイテムを補充してくるよ。グミが少なかったからね」
「じゃあ私も付き合うわ。未来の港町なんて色々興味あるしぃ〜」


そういうことでー、とみんな一斉に街中にバラける。ふと隣を見ると、少しつまらなさそうに下唇を出しているロニと目があった。


「…ナナリーとデート、行けなかったね」
「な、何を言っているのかな名無しさんさん。俺は別にあんなじゃじゃ馬娘とデートなんて行きたくないですよ?やだなあ、この、このこのっ…うぅ…ぐすっ…」
「泣いちゃったよ…」
「泣いてねえ!」


涙を腕で拭きながら鼻水を飛ばすロニ。汚い!と避けると、「そうか、俺は汚いのか…」と面倒くさいテンションになった。そっとティッシュを差し出すとすごい勢いで鼻を噛むもんだから思わず笑ってしまった。


「…みせもんじゃないんだからな」
「わかってるよっ。じゃあロニ、余りもの同士その辺ぶらつかない?私も恩人さんと回りたかったけど、疲れてるみたいだから」
「まあ最近連戦だったからな。…じゃあ行くか。どっか行きたいところあるか?」
「あ、私お腹空いたからね…」




****


宿を取り終えて部屋に入ると、思わずベッドにダイブしてしまった。常に見張りを買って出ているためか日頃の疲れが蓄積され、それが今睡眠欲として吐き出されようとしているらしい。猛烈な睡魔に抵抗しようともせずにまぶたを閉じると、気持ち良い位すぐに寝入った。


浅い眠りに切り替わったとき、不意に聞こえた聞き慣れた声で目が覚めた。それほどたくさん寝たわけではないらしいが、時間が良かったのかスッキリとした気分になった。
聞き慣れた声はドアの前まで近づいていた。遠慮がちなノック音に返事をすると、心配そうな顔をした名無しさんが入ってきた。


「恩人さん、大丈夫ですか?休めました?」
「まぁな。誰かさん達がいないおかげで静かだった」
「素直に寂しかったって言えば良いのに」
「そうか、貴様の耳は飾りなのか。邪魔だろう、優しい僕が切り落としてやる」
「すいませんでした」


綺麗な土下座をする名無しさんを見下して、鼻で笑う。悔しそうにこちらを見ていたが、不意に何かを思い出したように立ち上がりバックをゴソゴソと漁った。しばらくして探していたものが見つかったのか嬉しそうに小さな紙袋を取り出した。


「恩人さ…えっと、エミリオさんに!」
「…?」


訳も分からず紙袋を受け取る。名無しさんに視線を送ると開けてくださいと笑顔で返された。


「実は私も中身は知らないんです!ただ、ロニが『ジューダスの疲れはお前が癒してやれ』って」
「…なんだと?」


嫌な予感しかしなくなり袋を乱雑に開けると、その中に入っていたのはコンドーム。…なるほどわかった。ロニをみじん切りにすればいいんだな。


「お前…これがなんだか分かるか?」
「? さぁ」


中身を見せてもきょとんとする名無しさんは、本当にわかっていないようだった。分かっていたことだがやはり脱力した。女として大丈夫なのか、こいつ…。
手をこまねくと素直に僕のベッドに近づく名無しさん。本気で危機感がないんだな…。
彼女の無防備で細い手首を掴んでこちらに引き倒した。そのままベッドに組み敷くが、それでも訳が分からなさそうに目を丸くするだけだ。できるだけ顔を近づけ耳元で口を開く。


「これは避妊具だ。こういう状況の時使うんだ」
「えっ!あ、そ、その…!」


やっと意味がわかったのか顔を赤くさせて慌てふためく名無しさん。少しだけ可愛いと思ってしまった感情は押し殺して僕は体を起こす。ほっとしたように息をつく名無しさんを視界の端で見て、痛んだ胸にも気づかないフリをした。


「僕が言いたいこと、わかったか?」
「えっと、ロニは変。勘違いしてる。ロニは変ってとこですか?」
「上出来だ」


同じセリフが二度あるのはきっと気のせいだろう。…さて。僕はコンドームを新しい袋に包み直し、名無しさんに渡す。彼女はきょとんとしてそれを受け取った。


「どうするんですか、これ」
「ナナリーに渡せ。『ロニからのプレゼントだ』と」
「わかりましたっ」







その晩、ナナリーの怒号とロニの断末魔が聞こえてきた。


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エロじゃないとちゃんと書けない不思議

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