ゆめめめーん

□懺悔
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吹雪が体に吹きつける感覚で目が覚めた。周りを見渡すと、見慣れた面々も徐々に体を起こしていた。唯一カルバレイス出身のナナリーだけがこの寒さで具合がわるそうだったが、そのほかのメンバーは平気そうだ。

念のためリアラに視線を送ると、意味を汲み取ったのかしっかりと頷いた。


「成功よ。ここは千年前の世界…天地戦争時代」
「ほんとに来ちゃったんだなあ」
「時間を飛んだんだから当たり前だろう」
「まあ、そうですけど。なんか恩人さん冷たいですね」
「…お前はいい加減そのふざけた呼び方を止めろ」
「ふざけてないですよ!」


あきれた様子の恩人さんに、大真面目な顔で返答する。彼は、ダリルシェイドの近くの森でモンスターに襲われそうになっていた私を助けてくれたのだ。名前を聞くと「名前か…僕には必要ないものだ」とかかっこよく言うもんだから、最大限の敬意を込めて「恩人さん」と呼んでいる。

けれど彼はそれが気に入らないらしい。


「みんなが呼んでいるように呼べばいいだろう」
「今更ジューダスさんだなんて…名無しさん、呼べない!」
「何故頬を赤らめながら言うんだ!」
「ノリ?」
「…馬鹿が」


そう吐き捨てると、恩人さんは私たちと少し距離を置いて、何かぼそぼそと話し始めた。
今までに何回かあった光景だが、彼の正体を知ってしまった今、おそらくソーディアン・シャルティエに話しかけているのだと推測できる。この時代はソーディアンの時代。当事者に現在の状況を聞くのが一番効率がいいのはわかる。しかし。


「…なんか変だなあ」
「ん?どうした名無しさん」
「ロニ、恩人さんなんだかよそよそしくない?」
「そうだな…ま、あいつも色々考えることがあんだろ」


そう言うと、ロニはみんなの輪に戻ってしまった。
恩人さんの考えていることは分かってる。けど、自分で過去を断ち切るとか言ったくせに。つらつらそんなことを考えていると、みんなに呼ばれ私も今後の作戦について耳を傾けることにした。




****


偶然出会ったハロルドの部下として、私たちは戦争に参加することになった。しかし、作戦決行日はまだ先。それまでの間は、それぞれ休息を取ることにした。


ハロルドは飛行艇の製作、カイルとリアラはデート、ロニとナナリーもデートで構ってくれない。おそらく1人でいるだろう人物は、やはり1人で部屋で剣を磨いていた。


「おーんじーんさんっ」
「…なんだ鬱陶しい」
「そんなこと言っちゃって。私に抱きつかれて嬉しいくせにっ」
「斬られたいか貴様」
「すいません」


しぶしぶ離れると彼は服のシワを直していた。…そんなにイヤか。ていうか、前までそんなことしてなかったのに…。


「恩人さん、もしかして…私たちと壁、作ろうとしてます?」
「っ!」


やはり図星だったのか、彼は一瞬だけ体を強ばらせる。しかし一息付くと私に向き直り、当たり前だろうと吐き捨てた。


「僕は裏切り者だ。…ロニの両親だけじゃない…たくさんの人間の命を奪った。…なのに!僕は生きている!僕の意思じゃない!けど…!自分だけのうのうと生きて、仲間と呼べる人物がいて、自分を好きだと言ってくれる人物がいて…おかしいだろう。僕は…僕なんかは…」


言葉に出す内に感情的になったのか、彼の声は大きくなる。きっと、これはエルレインに生を受けたときからずっと思っていたこと。泣きそうな表情で、彼は自分を卑下する言葉をつらつら並べていく。私はそっと仮面を外して、彼の口を塞いだ。驚いて目を見張る恩人さんに、優しく笑いかけた。


「恩人さん。恩人さんが言ったんですよ、『僕はジューダスだ』って。…確かに、あなたは大罪人だ。それ相応の罪を償わないといけない。けどそれは、あなたが幸せになってはいけない理由にはならない。
ジューダスさん、あなたは今1人じゃない。私も同じだけ、罪を背負います」
「…お前は何もしていない。なぜお前が…」
「仲間だから」


あっけらかんと言い切る私に恩人さんはぽかんとしていたが、やがて糸が切れたように笑い出した。


「…おかしくなった」
「お前と一緒にするな」
「私はおかしくない!」
「馬鹿の間違いか?」
「失礼な!」


いつもの調子に戻ってくれた恩人さんに安心して、思わず彼に抱きついた。


「な、なんだ急に」
「恩人さんがなんか遠く感じて…。でもよかった、恩人さん戻ってきた」


顔に力が入らず、自分でもふにゃりと笑ったのがわかった。すると何故か恩人さんの耳が赤くなる。


「恩人さん?」
「っ…お前、いい加減呼び方を変えろ」
「ジュ、」「そうではなくて」


わけがわからずきょとんとしてしまった私に、彼は恥ずかしそうに俯きながら口を開く。


「…僕の名前、エミリオと言うんだ。2人きりの時はそう呼んでくれないか」


なぜ、彼が私にそんなことを伝えたのか、真意はわからない。しかし、そんなことはどうでもいいかと考え直して、「じゃあ、」と彼を見上げる。


「私の事も名前で呼んでくれますか?エミリオさん」

「…、あぁ名無しさん。ありがとう」




照れくさそうに笑う彼の表情に惹かれつつ、私も彼に笑いかけた。



『坊ちゃん良かったです』



そんな声がどこからか聞こえた気がしたが、真偽を確かめる前に私とエミリオの影は重なった。



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非常にチープ(他人事)

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