本jojo

□jojo露伴
1ページ/1ページ


ぼくのスタンドはヘブンス・ドアー。対象者にぼくの漫画を見せると、その相手は本になる。本に書かれていることは、その人の経験や記憶。だから嘘偽りのない情報を知ることができる。(ただそれはぼくの漫画がわかるセンスの良い奴に限られる)
康一くんからしたら、プライバシーという観点から、ぼくの能力は使うのを控えるべきらしい。でもぼくの能力は成長してきていて、今では空中に絵を描くだけで発動できるようになった。こんな便利な力、使わないなんて手はないだろう?(そもそも漫画家であるぼくに情報を利用されるなんてこと自体、とんでもなくありがたいことだと思ってもらいたいくらいだ)

なんて、思ってた。
…いや、違うな。基本的にはぼくのその考えは変わっていない。ただ、その能力を使う対象に含まれない人物が一人できたということだ。
なぜだかスタンド使いの多いこの街で、康一くんの友達だと言って紹介された彼女は珍しく、スタンド能力を持たない普通の高校生だった。もちろんこれは、ぼくのヘブンズ・ドアーで得た情報ではなく、康一くんから聞いた情報だ。
康一くんは、初対面の彼女にスタンドを使わないぼくのことを(いつもなら能力を使うことを咎めるくせに)不審がっていたけれど、ぼくだって不思議に思っているんだ。いつもなら、躊躇なく、ヘブンズ・ドアーで敵なのかどうか判別するところだというのに。
ぼくにもわからない。わからないけれど、なぜか、ぼくは彼女には、ぼくの力は使いたくない。だがそれは、彼女についてのことに、今まで接触してきた他人以上に興味がないということではなく、むしろ。…なんとなく、だが、彼女の情報は、彼女の口からきちんとききたい。そう思ってしまっている。そしてその理由がきっと、彼女がぼくに名乗ったときにぼくが得た、良い漫画が描けたときのような充足感によるものだということにも気づいてしまっている。
ぼくが?他人に興味を持つだって?今までそんなことはなかった。初めての感情だ。これも漫画のネタになることなんだろうか?
考えてみたけれどやはりわからない。

街中で人間観察でもしたら、この気持ちがなんなのかはっきりわかるだろう。これが、恋なんて馬鹿げたもののはずがない、と否定するためにぼくは散歩に出かけていた。
すると、運悪く、と思いたいのだが、偶然、彼女と遭遇してしまった。
奇遇ですね、なんて笑顔で話しかけてきたけれど、数える程しか会話をしたことがないほとんど他人同然のぼくに、どうしてそこまで笑いかけることができるのか。彼女にはぼくのわからないことが多すぎる。
顔を見て話そうにも、特に言葉は見つからずに、あぁ、としか返せなかった。それでも、彼女は笑顔を崩さずに、そしてぼくの返答をさして気にした風でもなく言った。


「久しぶりに買い物したら、ちょっと疲れちゃいました」


どうやら彼女は、あまり気を張らず、誰とでも世間話のできる人間らしい。そこで初めて気がついた小脇に抱えた荷物は、少々厚みがあり、見たところ長方形で、けっこうな重さがあるようだ。


「図鑑でも買ったのか」

「え!先生すごい!どうしてわかったんですか?」


どうしてもなにも、見ればわかることだったが。
ぼくが言い当てたことに対して、さっきからの笑顔をさらに明るいものにしてはしゃいでいる彼女。
それくらい誰にだってわかるだろう、そう言おうと思った。そのために口を開いた。けれど、


「ちょうどぼくも休もうと思ってたところだ。君も一杯くらい付き合えよ」


僕の口から出たのは、そんな、誘いの言葉だった。
え。思わず視線を地面へと逃がした。
勝手にすらすらと紡がれた言葉に、ぼくは驚いている。無論彼女もそうだろう。そこまで親密でない人間と、世間話くらいはできても、カフェでお茶するなんて。
混乱(と、恥ずかしさなんて小娘に感じる訳がないが、それに近いような感情がなぜだかある)から、歩道の模様がぐるぐるとして見えてくる。
そんなのに付き合うわけないだろうって言われるに決まって


「わ!いいんですか!」


え?
思いがけない返答に、反射的に視線が彼女へと戻される。
目に入った顏は、変わらず笑顔で、ぼくの目がおかしくなければの話だが、本当に喜んでいるように見えた。


「私もちょうど、コーヒーでも飲みたいなって思ってたんです!うれしい!」

「…そうか」


今度は彼女の言葉に驚いた。スタンドを使わずに、誰かの行動を希望の方へ導いたのは、もしかしたら久しぶりかもしれない。
ぼくは平静を装いながら、カフェ・ドゥ・マゴへ歩き出した。彼女は隣に着いてきながらはしゃいでいるようだ。


「それにしても、先生!私の買い物当てちゃうし、休みたかったのも当てちゃうし、超能力でもあるんですか?」

「そんなものを信じてるのか?あるわけがないだろう」

「あは、そうですよね、でもあったらいいなって」

「あっても君には言わないだろうな」

「え!?教えてくださいよ!」


おとぎ話みたい〜と、冗談めかして言う笑顔。
君の言うおとぎ話は、実はすぐ隣に存在しているのだけれど、きっと君相手だったら出番なんてないだろう。
現にぼくは、君から直接語られる話なら例えおとぎ話でも、聞いていたいと思ってしまっている。










‐ひみつのはなし‐

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ