本jojo

□一緒に帰ろう
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日曜日。友達との約束もなく一人でヒマを持て余していた私は、たまにはサンドイッチでもとサンジェルマンへ向かった。
店内へ入ると焼きたてのパンのにおい。ちょうどお昼前に焼き上げるんだったっけ。ひとつずつラップに包まれきれいに陳列されているパンは、どれもおいしそうで目移りする。たまごサンド、カツサンド、あぁ、今メロンパンも運ばれてきた。
お昼ご飯にと思ってここに来たのに、店を出るときに気がつけば、とても一人では食べきれない量のパンが手に下げた袋に入っている。サンドイッチが二つとかなら、おしゃれに紙袋を下げて公園ででも食べたのになぁ。買い過ぎたことを反省しながら、とりあえず家に持って帰ろうと歩き出すと、通りの角から露伴先生が現れた。


「あ、こんにちは」

「…どうしたんだい、それ」


私は挨拶をしたというのに、先生はそれに返すどころか怪訝な顔をして私を見た。正確には私の手に下げてる先程の買い物。


「えっと、買い過ぎちゃって」

「そうだよな。それを聞いて安心したよ。まさか一人でそれを食べるわけじゃあないよなと思ったからね」


呆れているのか、そもそも私のことを馬鹿だと思っているのか、十中八九後者だと思うけど、露伴先生は軽蔑に近いような表情で言う。


「あの、先生はなにをなさっているんですか」

「ぼくは図鑑を買ってきたところだよ。そうか、もう昼なのか…。ぼくもカフェ・ドゥ・マゴにでも行くかな」


私が話題を変えようと先生の用事を尋ねると、もう終わったとこらしい答えが返ってきた。


「じゃあ、これ一緒にどうですか?」

「なんだって?」

「ほら、買いすぎちゃったし…先生も早く家に帰って図鑑を見たいでしょう」


さりげなく家に上げろと催促する。我ながら良い思い付きだ。
このまま一人自宅でサンドイッチをもそもそかじるよりよっぽど楽しいだろう。買い過ぎた袋の中身の消費も手伝ってもらえるし。


「ム…それはそうだが…。やどり。どうせ君は、ぼくの家ならお茶もついてくるとかいう魂胆だろう?バレバレだぜ」

「あ、やっぱりそうですか」


そんなの見え見えだとあざ笑うように、顎をあげてフン!と笑った先生は、まぁ、と言ってから図鑑を抱えている腕を指さした。


「ここで立ち話していても腕が疲れるだけだからな。それに、君みたいな一人じゃお茶も飲めないカワイソーなヤツを放っておくのもちっとばかり良心が痛むからね。ついて来いよ」

「え!いいんですか!」


自ら先生の家に入れろと言ったのに、いざOKされたとなると驚いてしまった。
先生はさくさくとした物言いで、


「ほら、どうせ君はぼくの家がどこかも覚えてないだろう?遅れるんじゃあないぞ。君が迷子になっても探すなんてしないからな」


と、私の横を通り過ぎた。


「ありがとうございますー!」


口は悪いけど、このまま家まで連れて行ってくれるらしい。
なんだかんだ言ってこの人は優しいのかもしれない。康一くんが「灰色の人だから信じちゃだめだよ」、なんて言ってたことがあったけど、嘘っぱちだと思う。
きっと本当は紳士的で女性の荷物も持ったりするタイプだ。


「あ、言い忘れたよ」

「なんですか?」


露伴先生は、隣を歩き出した私をちらりと見た。
なんだろう。それ持ってやるよ、とか言うんだろうか。さすが!さすが先生!
どこまでできた人なんだろう、と期待しながら先生の言葉を待つ。けど。


「その袋だが。自分で持ってくれよ。僕だって図鑑を持っててこれ以上荷物が増えるのは嫌だからね」


放たれた言葉はこれである。なんてひどい。
別にそんなに、絶対持ってもらおうなんて思っていなかったけど、わざわざ「自分で持てよ」というところに口の悪さだけでなく性格の悪さまでにじみ出てる。
康一くんごめん。一瞬でも疑ってごめんね。あなたの言う通りでした。
つんとしながら横を歩く露伴先生に、内心舌打ちしたけど、そもそも家に上げてもらうんだし、まぁ、許してやろう。







‐一緒に帰ろう‐
(ところで何を買ったんだい)
(サンドイッチとかですけど)
(フン、君にしてはいい方だな)
(…)

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