本sdr2

□sdr2田中
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「うるせーぞハムスターちゃん!」

「フッ…所詮雑種がいくら喚いたところで雑種には変わりないのだ…貴様は生まれついた時から生涯俺様に敵わぬ運命…諦めることだ」


教室の真ん中で繰り広げられる光景を見て、あーあ、と呆れた声を出したのは日寄子ちゃんだった。


「まーたやってるよ、バカってホント毎日毎日よく飽きないよねー」

「うーん…、確かに否定はできないよね…」

「でっしょー!?メカニックバカはオイルまみれで汚いし、中二病バカは何考えてるかわかんないしでホントキモーい!おねぇもそう思うでしょ!?」


苦笑いで同意した真昼ちゃんの言葉に勢いを増した日寄子ちゃんから、私も意見を求められたけれど、ただ曖昧に笑って返すことしかできなかった。日寄子ちゃんはそれを見て不満そうにしていたけど、これには理由があるの。



‐ひみつのはなし‐



実は、教室の真ん中で言い合っていて、日寄子ちゃんが非難している人物の片方は、私の彼氏。日寄子ちゃんの言葉で言う、中二病バカの方。
本心ではやっぱり、好きな人のことを悪く言われるのは嫌なんだけど…中二病は正直否定できないし、なにを考えているかわかんない…のもその通りかもしれないし、(日寄子ちゃんのつく悪態とか悪口とかはもうほとんど口癖のようなものだから、)あんまり気にしてない。それに、私と田中くんが付き合ってるって知っている上で言っている訳じゃないし。
…なんで付き合っていること日寄子ちゃんが知らないのか?それは、私たちが付き合っていることは、皆には内緒にしてあるから。でも別に、さっきみたいにバカにされるからとか、「中二病と付き合ってるのー?」って日寄子ちゃんに言われそうだからとかじゃない。
ただ単に、照れくさい。





「なにを笑っている」


学校帰りに呼ばれた田中くんの部屋。
田中くんが、私の方ではなくハムスターのケージを見つめていたのをいいことに、私はお昼のことを思い出してにやにやしていた。でも声をかけられて改めて田中くんの方を見ると、顔だけをこちらに向けている。いつの間にか気がついていたようだ。


「ううん、なんでもない」


なんでもなくないから笑っているんだけど。私がそんな返答をしたから、田中くんの眉間には皺が寄った。むっとしたらしい。


「貴様…、この魂をわけた存在の俺様に隠し事が通用すると思うな」


田中くんはそう言うと、体ごとこちらに向いた。


「喜びも悲しみも苦しみも、すべて我らで分け合える。そうして俺様たちの因果はより深く強固なものとなるのだ。理解できたのなら、貴様の笑みの訳を話せ」


なんだか難しいことを言っているけれど、これは、
「楽しいこととかは二人で共有すればもっと楽しいうれしいことになるし、悲しいことでも二人でいれば辛さも半分になるし、そしたら今よりもっと仲良くなって絆が深くなる」
ってことを言っているらしい。


「ふふっ」


思わず笑い声をもらした私。田中くんの表情は今度は、むっとしたものから驚いたものになった。


「どうした…?気でもふれたのか……?…!ま、さか……貴様、闇の住人に…?」

「ちがうちがう、大丈夫!」

「ならばどうして…?」


突飛な想像に行きついたらしい田中くんを落ち着かせる。本当は言うつもりはなかったけれど、今の田中くんが心配そうな顔をしているから、言うしかないか。


「あのね、お昼に、左右田くんとなにか言い合ってたでしょ」

「言い合っていたなどと対等であるかのように言うな!あの雑種は俺様には到底」

「わかったごめん。でね、それを見てね、みんなが田中くんて何を考えているんだろう?て言ってたから、おかしくて」


少しオブラートに包んで言うと、田中くんは、む、と声を漏らした。複雑に思っているような声色と表情だけど、「何を考えているんだろう?って言ってた」ことよりも、「なぜ私がその話をしているのか」への感情のようだ。


「こんなに田中くんは気持ちを出すのにって」


付け加えると、さっきから静かに、だけどころころと変わっている彼の表情はまた変わる。今度は疑問があるような顔だ。


「?どういうことだ」

「んー、他のみんなは知らないことだけどさ。田中くんが、本当は誰よりも、気持ちが表情にも言葉にも細かく出てて、優しい人っていうのをね。私だけが知ってて、独り占めできてるんだなぁって」


うれしくなっちゃった、と再び上がって来た口角のまま言った。田中くんは、恥ずかしいのか顔をしかめているけれど、気づいてないのかな、ごまかせないほど真っ赤になっている。
さっき言ってた、「楽しいことは二人で分け合えば」みたいに、私のうれしいことで照れている田中くんを見たらもっとうれしくなった。
本当は、田中くんがすごく素直で素敵だってみんなにも教えてあげたいけど、やっぱりまだ照れくさいし、しばらくは、二人だけの幸せな秘密にしていたい。










‐ひみつのはなし‐

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