本sdr2

□そしてそれから30分
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「…やどり、そろそろその手をとめたらどうだ?休息をとらないとは愚かな行為だ」

「ちょっと待って!今いいところなの」

「貴様先程もそう言ったが、あれから既に30分経っているのだぞ。いい加減にしろ」


田中くんが隣でいらいらした風に言っているのは、私が長い時間ゲームをしていることについてだ。
私は千秋ちゃんほどじゃないけどゲームが好き。ゲームがあれば何時間でも時間なんて潰せるし、闘いでもストーリーでも盛り上がるところに差し掛かれば、ついついプレイしてしまうのはゲーマーの性だろう。そして、あと少しで家に田中くんが遊びに来るってわかっていたのに、「あと20分か…ゲームして待っとこう!」となるのも、ゲーマーの性だろう。
そして約束した時間通りに田中くんが来た時には(申し訳ないけど)あとちょっと遅れて来てもよかったのにな…なんて思ってしまった。そしてそれから30分。田中くんは、ゲームをポーズにしてから慌てて出迎えた私の言った「ごめん!ゲーム今いいところだから!ちょっと待ってて!適当にくつろいで!」という言葉に、「いいだろう」、なんて頷いて待っててくれた。うん、私が悪いです。そしてちょっとと言って30分待たせて、今もなお待たせようとしている私。悪いです。


「ごめんね!でもね!今…もう少しで…中ボスが倒せそうで…!」


粘って粘ってついにここまで来たの、と画面から目を離さずに言うと、田中くんはほう、と呆れがちに言った。


「なるほどな、今やめると、これまでの時間が無駄になるということか。…わからないでもない、な」


視界の端で、田中くんが頷いているのが見えた。よかった。わかってくれた。


「ありがとう、だからもう少しだけ!待ってて!」

「…よかろう」


よし、田中くんが許してくれた。ここで一気に畳みかけてこいつを倒さないと、さすがに次は田中くんも許してくれないだろうし。
もう一度田中くんにありがとう、と言うと、あぁ、と短い返事。これ以上話しかけられても、私は今集中してるし、口を聞く余裕もないからちょうどいい。
だけどそんなことを思った瞬間に、田中くんから放たれた言葉によって、私のその集中は途切れてしまうのだった。


「貴様がその遊戯を終えた後、どれだけ俺様に奉仕してくれるのだろうな」

「え?」


なにその話?と思ってついゲームから目を離して田中くんを見てしまう。するとゲームからは敵に倒された音がした。


「あーっ!」

「フッ…終わったようだな」


画面を見るとゲームオーバーの文字。あぁ、せっかく粘ったのに…!
悔しがる私に、田中くんはちょっとだけ楽しそうに語りだした。


「やどり。貴様はこの俺様を随分と待たせたな…。貴様の言う通り、これまで時間のかかったものを無理にやめてもそれまでの時間が無駄になるだけなら、続けるのが賢明だというのは俺様も同意見だ」

「今無駄になったけどね…!」

「しかしそれは貴様の30分の話だろう?…さて、俺様は貴様に無理に遊戯をやめさせなかったことで貸しをつくった。この俺様の30分の価値は、今からの貴様によって無駄なのか有意義なのかが定められるのだ。いいか!!」


?やたら饒舌にぺらぺらとしゃべる田中くん。だけどいまいち何が言いたいのかわからない。
とりあえず黙って聞いている私に、ポーズを決めた田中くんは、口角を上げてこう言い放った。


「貴様から俺様に口づけをしろ」

「え!?」

「どうした?やどり。早くしろ」


急になにを言っているんだろうか。聞き間違いじゃないかと戸惑う私を、田中くんは勝ち誇った表情で腕組をして見ている。
あぁ、これは仕返しだな。30分も待たせやがって、みたいな。でも、待たせておいてなんだけど、私も田中くんが余計な事を言ったからゲーム負けたし、してやったり顔の田中くんを見たら、なんだか私も悔しくて…。


「フン…できないと言うなら、今後俺様といるときはその遊戯に手は出さな、!!??」

「…したよ!」


目を閉じて諭すような言葉を紡ぐ田中くんの唇を、塞いだ。


「!?貴様いきなりなにを…っ!!」


唇を離すと、目を大きく見開いた田中くんが真っ赤な顔で、信じられないという風に言った。


「田中くんが言ったんじゃん!」

「な、俺様は、そんな」

「もっかいしてもいいよ?」

「ぐっ…!!」


私が言い返すと、顔を歪ませて唸る田中くん。赤い顔を私に見せないようにそっぽを向いてしまった。…ちょっとだけからかいすぎたかな?謝った方がいいかも。


「田中くん」


そう思って声をかけると、田中くんはバッ!とこっちを見た。…そのときの顔が。悔しそうで恥ずかしそうで、唇を震える手で抑えてて…。


「…かわいいね…」


私の口からつい出てきたのは決して謝罪ではない言葉で、そしてそれはさらに田中くんの顔を赤くさせるのだった。










‐そしてそれから30分‐
(田中くんはずっと真っ赤です)

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