本sngk

□sngkエルヴィン
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「この話、知ってるかい?」


隣を歩く彼女にそう声をかけると、それどころではないといった声が返ってきた。


「えぇ?なんですか、今手がふさがってるから」

「いや、耳だけ貸してくれればいいんだ。とっておきの話なんだが」


言いながらちらりと視線を向ける。(俺よりもはるか下にある)頭を揺らしながら、両手に抱える荷物を重たそうに持ち直したのが見えた。
彼女にはこうして、何かと雑用を頼む。今回のように物を運んだり、書類をつづったり、時にはその書類の山でどうにもならなくなってしまった俺の部屋の片付けも。それらすべてをいつも、嫌な顔せず引き受けてくれる。
そんな風だから、ついつい頼ってしまって、会う機会も増えて必然的に会話も増える。その度に俺はいつも、冗談めいた噂話などを彼女に話す。最初こそ、素直さからなのか上司の話だからなのか、きちんと応えてくれていたのだが。


「どうせ団長のとっておきは、根も葉もない話ですよ」


こうしてかわす術を覚えたようだ。少し残念に思う。


「いいや、そんなことないぞ。今回は特に」


俺の言葉に、隣からは、ほんとかなぁと独りごちるような声とこちらを見上げる視線が返って来た。


「じゃあ、聞きます」


よいしょ、とまた荷物をもちなおし、前を向いて歩き出す。
…さて、根も葉もない話ではないと言ったが、実際には彼女の言った通りで、俺の話はすべて、くだらない嘘の話だ。今まで話してきたそのどれもが、ちょっとからかってやろうと考えたつくり話。それをさも本当の内緒話かのように、声を潜めて「誰にも言うんじゃないぞ」なんて、もっともらしく話す。彼女はもしかしたら、うそだと気づきながらも俺の少ない娯楽に付き合ってくれているのかもしれない。
今までに言ったことがあるのは、「ミケの髭は鼻の下のほくろを隠したいから」「南兵舎にある幽霊話の正体は夜な夜な掃除をするリヴァイ」だとか、なんの得にもならないようなことばかり。それでもいつも、こうして仕事を頼んだ時には、ひそひそと話す俺の言葉を顔を寄せて聞いてくれる。
俺がしばらく黙ったままなのが気になったのか、彼女はまた、顔を上げた。


「団長?話さないのなら私は別に聞かなくてもいいんですけど」


ぱちっ、と、いつでも俺をまっすぐに見てくる大きな目をしばたたかせた。
…あぁ、これじゃあ。まるで俺は、この瞳に見つめられたいがために、中身のない話をしていたみたいじゃないか。それも、肝心な話がこわくて、だけど、二人だけのなにかが欲しくて、くだらないつくり話を。
話したいと思っていたのは前からずっと自覚はしていたが、それがどうしてなのか、なにを欲してだったのかは、今のこの瞬きに、すべて気づかされたように思えた。


「とっておきだからもったいぶっているんですね」


彼女は既に前を向いている。


「あぁ、そうだ」


こちらを向いてほしくて、大層なことであるかのように前置きをした。


「今から言う話は、嘘や冗談じゃない。いいか、誰にも言うんじゃないぞ」


いつもと同じセリフ。だが、今、こちらを見つめている目に映る俺は、いつもと同じ表情ができているだろうか。彼女の瞳の中の俺からは、表情までは確認できない。
秘密の話をするために、そして瞳を覗き込むために。声を潜めて、いささか屈んで見せた。


「いいか」


返事がわりに瞬いたのは、いつものように顔を寄せて、いつもの話を待っている見慣れた瞳。


「私は、ずっと」


俺の口から滑り出ようとしているのは、たった今自覚したばかりの、本物の秘密ごと。
覗き込んだ瞳の中には、余裕の無さそうな顔が見えた。











‐ひみつのはなし‐

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