本sngk

□気持ちは全く揃わない
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今日は久しぶりの休みの日。普段はなかなか買い物なんてできないから、今日は久しぶりに街へ行こうと思う。一人でゆっくり、自由に買い物できるなんて、良い過ごし方だな。
…なんて、思ってた。
街へ来るまでは。


「おいやどり、昼飯はどうすんだ」


なぜあなたがそんなことを気にするんですか?
っていうか。


「兵長…なんでついてくるんですか?」


隣に並んでさも当然のようにお昼ごはんのことを気にする兵長に疑問をぶつける。
街についた私の目の前に現れたのは兵長だった。軽く挨拶をして、兵長も買い物に来るんだなぁどこのお店に行くんだろ、なんて思ってたのに、兵長が私から離れることはなくそれからずっとついてきてる。


「なんでって…そりゃあ…部下がいたら面倒くらい見るだろ」

「暇なんですか。休みの日まで面倒見るんですか」

「チッ…うるせぇな」


あっ舌打ち。
どうやらこれ以上追及したら怒られるようだ。大変不服だけど私は兵長がついてくることを受け入れることにした。大変不服だけど。
せっかく一人でゆっくり過ごせると思ってたのに、どうしてついてくるんだろう。ついてこないで、という気持ちも込めて「暇なんですか」と聞いたのに、返って来たのが舌打ちだったらもうなんと言いようがない。
こうなったらせめて、私のペースを乱さないで欲し


「で?昼飯は」


あーもう!


「食べない!食べません!もう今日はさっさと買い物だけして帰る!帰ります!」


!しまった。カチンと来た勢いで強めに言ってしまった。兵長、怒っているかもしれない。
おそるおそる顔色を窺う。でも。


「…」


…兵長は、特に言い返してくる様子もなく、無表情のままだった。よかった、聞こえてなかった…のかな?少しだけ顔にかかる影が濃い気がするけど。まぁいいか。
怒られなかったことに安心しつつ、私は雑貨屋さんに入った。


「こんな店で何を買うんだよ」


勝手について来ているくせに隣でぶちぶちと言う兵長のことはこの際無視だ。私の今日の外出の目的は、このお店でマグカップを買うこと。
仕事中の書類整理の時に、お気に入りのカップでコーヒーでも飲んだら気持ちが少し晴れると思わない?そういう、気持ちが落ち着いて仕事も頑張れるようなカップを探しに来たのだ。
お店の中をぐるりと見渡し、カップがありそうなところへと向かう。ここでもやっぱり兵長は後ろをちょこちょこと着いて来た。本当になんなんだ。


「わっ、これかわいい」


目に入った棚にはたくさんのカップが並んでいた。その中でも一際目を引いたのは、目立つ赤色で大きくハートが描かれたもの。本当なら、大きなハートなんて子供っぽいかも、と思うんだけど、これは赤色がシックな色で、カップの形も相まって落ち着いたかわいさがある。下地の色が真っ白ではなく、少し黄みがかっているところも素敵だ。
思わず声を上げて手に取って眺めていると、横からにゅっと頭が突き出てきた。紛れもなく兵長の頭だ。


「ちょっ見えない!」

「あぁ?」

「いいえどうぞ持ってますから見てください」


もう本当に邪魔なんだけど、凄まれたから大人しくしておこう。兵長はふん、と鼻を鳴らしつつカップを(人に持たせたまま)眺めている。
しばらくそうしていると、兵長はカップから顔を離して、棚に一通り視線を巡らせた。


「てめぇはこんなんがいいのか」

「こんなんって…いいじゃないですか、かわいいでしょこれ」


人が気に入ったものを「こんなん」だと。失礼な。何度も言うけど勝手に買い物について来てるくせに。
ムッとしながら返すと、兵長はほぉ、と興味がなさそうに言った。
はぁ、もうやだ、早く買い物して帰ろう。


「仕事中に使うカップが欲しかったんです、気分よく仕事できるとうれしいじゃないですか。このカップかわいいし!」


とりあえずぺらぺらと捲し立ててさっさとレジに向かってしまおうという考えだ。これ以上ここに長居すると兵長にまた変な面倒くさいことを言われるだろうから!


「そうか」

「そうです」

「この青色とかはどうだ?」


あぁなんなの、急になんなの、なんの食いつきなの。
体は既にレジの方に向いていたけれど、一応は上司である兵長からの問いかけだ、くだらない質問であろうと無視はできない(さっき一度はしたけれど)。
いやいや振り返ると、兵長は私の選んだカップの色違いを手にしていた。といっても、ハートは星になっている。だけどカップの形や、色の組み合わせの雰囲気などは同じで、色違いとわかるものだった。


「いや、私はこのハートに惹かれたので」

「そうか」

「そうです」


わざわざ答えたのに、兵長はまたも、ほぉ、と言っただけ。
はぁ、どっと疲れた。さっさと帰ろう。
未だしげしげとカップを見ている兵長を残したまま、私は会計を済ませてお店をあとにして、休日を終えた。





やっぱり買っといてよかった、今日の仕事もこのカップがかわいいおかげですごく捗っている気がする。だから、いつもは面倒な兵長への書類提出も、今日はスキップするくらいの勢いで部屋に向かえる。


「失礼します」

「あぁ」


ノックして部屋に入り、お疲れさまです、と机についている兵長に言った。
……!!!???
机の上に、なにか、見たことあるものがある。
さっきまで私が使っていたカップの色違い、いや兵長の机の上の物は星柄だけど、えっと、あれは確かに、お店で見たもの…!!


「どうした?やどり」

「いいえ」


ただここで話題に出すとめんどくさい。絶対めんどくさい。何も気づかなかったフリをして兵長に書類をさっさと渡して帰ろうとする。
兵長はわざとらしく、書類を受け取る前にカップを持ち上げ紅茶を飲んでいたけど、絶対なにも突っ込んでやらない!
あと私、あのカップ、もう仕事中に使うのやめる。









‐気持ちは全く揃わない‐



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